競業避止義務とは? 概要から、対象会社に課される競業避止義務、競業避止義務を定める際の留意点、違反した場合の対応について詳しく説明します。

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M&A(Mergers and Acquisitions、合併・買収)において、競業避止義務はM&Aの売り手に課せられる義務とされています。買い手の利益の保護を目的として契約書に盛り込まれるものの、内容によっては有効性が認められない場合もあるため、留意が必要です。
今回は、競業避止義務の概要から、対象会社に課される競業避止義務、競業避止義務を定める際の留意点、違反した場合の対応について詳しく説明します。
競業避止義務

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1. 競業避止義務の概要

1-1. 競業避止義務とは?

競業避止義務とは、会社が行っている事業と競業する行為を行わない義務をいいます。競業(きょうぎょう)とは、「営業上での競争」を意味する言葉で、会社法第21条には、「譲渡企業が競業避止義務を負うこと」が明記されています。
ここでM&Aにおける競業とは、主に以下のような行為をいいます。

  • 売り手である対象会社の経営者・役員・従業員が売却した会社と同じ事業の会社を営む
  • M&A成立後、売り手である対象会社の役員や従業員が競合他社で働く

M&Aの最終契約書には、売り手に対する競業避止義務を盛り込むのが一般的です。その理由は、売り手の競業を認めると、買い手がM&Aの本来の目的を果たせなくなり、不利益を被るためです。
買い手は将来の利益を見込んで譲渡対価を支払いますが、売り手が競業する存在になることは想定していません。
例えば、株式譲渡によって買い手が対象会社の経営権を獲得すると、通常、経営者が交代します。旧経営者は退任しますが、技術や知識を持つ旧経営者が別の会社を立ち上げて同じ事業を始めれば、買い手である譲受会社の競合他社となります。
対象会社を退職した役員や従業員が競合他社に雇用されれば、これも買い手である譲受会社にとっては将来的な成長を妨げられるなど、大きな脅威となり得ます。

2. 対象会社に課される競業避止義務

次に売り手である対象会社に課される競業避止義務として2つケースの事例を紹介します。

  • 事業譲渡の場合
    事業譲渡とは、売り手が事業の全てまたは一部を第三者に譲渡するM&A手法です。株式譲渡や合併と異なり、譲渡したい事業を自由に選択できるのが特徴です。
    会社法第21条(譲渡会社の競業の禁止)では、事業譲渡における競業避止義務として以下のような記載があります。
    ‐譲渡会社は当事者の別段の意思表示がない限り、同一の市町村の区域内および隣接する市町村の区域内で、事業譲渡した日から20年間、同一の事業を行ってはならない
    ‐譲渡会社が同一の事業を行わない旨の特約をした場合には、その特約は、その事業を譲渡した日から30年の期間内に限り、その効力を有する
    ‐前2項の規定にかかわらず、譲渡会社は、不正の競争の目的をもって同一の事業を行ってはならない
    ただし、会社法21条には、「事業譲渡の競業避止義務を必ず定めなければならない」という記載はないため、競業避止義務を契約書に盛り込むかどうかは、双方の話し合いで決まります。
    最終契約書の締結時は、「片方が不利になる内容になっていないか」や「必要な条項は盛り込まれているか」を確認する必要があります。
  • 株式譲渡の場合
    株式譲渡とは、売り手の株主が買い手に株式を譲渡してその会社の経営権を移譲するM&A手法です。事業譲渡と異なり、会社の権利義務や資産負債の全てを引き継ぎます。株式譲渡契約書では、万が一のリスクを想定して、売り手と買い手が分担するリスクを明確にしておく必要があります。特に買い手は、売り手の全てを把握しているわけではないため、できるだけ条件を細かく定めるように交渉する必要があります。
    会社法に株式譲渡における競業避止義務に関する規定はありませんが、株式譲渡契約書を締結する際には、一定期間の競業避止義務の条項を定めるのが一般的です。

3. 競業避止義務を定める際の留意点

次に競業避止義務を定める際の留意点を紹介します。
競業避止義務を定める上では、範囲と期間を明確に規定する必要があります。契約書に織り込む際の主な留意点は以下のとおりです。

  • 「競業」になる範囲を明確にする
    会社法第21条には、「同一の事業を行ってはならない」と記載がありますが、今後何らかの事業を始めたい売り手からすれば、競業になる範囲は明確に、かつ限定的にして置きたいと考えますので、買い手は売り手との交渉時には慎重に行う必要があります。
  • 適切な期間に設定する
    会社法上、事業譲渡における競業避止義務の期間は20年間で、特約で最大30年間まで延長ができます。しかし、実務上は5~10年になることが多く、30年間と長期に設定されるケースは稀です。そのため、契約書の締結にあたって、買い手と売り手はお互いの事情を考慮して交渉のうえ、適切な期間を設定することになります。
  • 役員や従業員に対する競業避止義務
    日本国憲法では、職業選択の自由が定められており、売り手側の役員や従業員も例外ではありません。そのため、職業選択の自由を不当に制限する競業避止義務は無効となるため、留意が必要です。

4. 競業避止義務を違反した場合の対応

競業避止義務の違反があった場合、競業行為の差し止めや損害賠償請求ができる可能性があります。しかし、競業避止義務を契約書に定めていても、M&Aの実施後に同種の事業を開始する売り手もいます。その場合の対応として買い手は、競業避止義務を定めるだけでなく、契約違反をした場合の罰則を明確に定めておく必要があります。

5. まとめ

競業避止義務は、主に買い手の利益を守るために存在します。M&Aの最終契約書の締結時には、競業避止義務を忘れずに規定し、契約違反した場合の罰則も織り込むようにして、今後のリスクに備えたいものです。
ただし、契約書を作成するにあたっては、専門用語を使用したり、法律上の解釈や実務上の対応も複雑かつ難解なものもあるため、経営者としては、適宜、弁護士やM&Aなどの専門家に適宜相談する必要があると考えます。

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監修者プロフィール
M&Aキャピタルパートナーズコーポレートアドバイザリー部長 梶 博義
M&Aキャピタルパートナーズ 
コーポレートアドバイザリー部長
公認会計士梶 博義

大手監査法人、事業承継コンサルティング会社を経て、2015年に当社へ入社。
これまで、監査、IPO支援、財務DD、親族承継・役職員承継コンサル等を経験し、当社入社後はM&Aアドバイザーとして活躍。一貫して中小企業の支援に従事し、M&Aのみならず、事業承継全般を得意とする。

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