合併における債権者保護手続きとは? 手順や個別催告を省略する方法について解説

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企業グループ内において業務を効率化する場合や、事業規模の拡大を目指す場合などに、組織再編が行われることがあります。組織再編には多様な方法がありますが、合併もこうした手法の一つです。
親会社が子会社と合併したり、子会社同士が合併したり、さまざまな形でグループ内の組織再編を目指して合併が行われます。一方で、合併に対して異議を唱える債権者もいます。
このような債権者の利益保護を行うのが債権者保護手続きです。本記事では、合併における債権者保護手続きについて、その定義や意義、手順や注意点などについて解説します。

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1. 合併時の債権者保護手続きは必須

はじめに、合併を行う際に必須となる、債権者保護手続きの概要について説明します。そのうえで、どうして債権者保護手続きが必要なのか、手続きを行わなかったらどうなるのかについて解説します。

1-1. 債権者保護手続きとは

組織再編によって企業同士を合併したり、反対に分割したりすると、会社の状況は大きく変わります。例えば、大きな会社が小さい2つの会社に分割すると、事業規模も資本力も縮小することが一般的です。また、2つの会社が合併すると、統合がうまくいかず、人員増加による混乱から業務が非効率的になる場合があります。
このように、会社の状況を大幅に変える組織再編を行うと、債権者の利害に多大な影響を及ぼしてしまうかもしれません。
そこで会社法では、組織再編をする場合は事前に公告や個別催告を行い、債権者が組織再編に対し異議を述べる機会を一定期間確保することが定められています。これを「債権者保護手続き」といいます。
なお、組織再編以外にも、資本金や準備金を減少させる場合などには、債権者保護手続きが必要です。

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1-2. 合併における債権者保護手続きの必要性

合併や会社分割を行うと、会社の資本構成や事業規模などが大きく変わるため、融資や取引などの信用に関する前提条件が大幅に変化してしまいます。
そのため、債権者が組織再編行為に関して不安を感じることがあります。こうした債権者を保護する目的で設けられているのが、債権者保護手続きです。
合併を行う前に異議を述べる一定の期間を設け、異議を申し立てた債権者に対しては、債務の弁済や担保の提供などを行うことで、債権者が不利にならないように対応することが義務付けられています

1-3. 合併で債権者保護手続きを行わなかった場合


上述のように、会社法では、合併する際に債権者保護手続きを行うよう定めています。そのため、債権者保護手続きを行わないで合併してしまうと、合併手続きの重大な瑕疵として合併の無効原因となると考えられています
そもそも合併が事実上行われると、それを前提にさまざまな法律関係が積み重なることから、取引の安全性や法的な安全性を害するため、合併を完全な白紙に戻すことは難しいでしょう。そのため、債権者保護手続きを行わなかった場合のように、合併の手続きに重大な瑕疵があった場合には、一定の者はその合併が無効であるという訴えを提起でき、合併無効の判決が確定すると、その判決の効力は将来に向かってのみ効力が及びます(合併が最初から無効であったことにはなりません)。
合併無効の訴えを提起できるのは、合併当事会社(吸収合併の場合、消滅会社及び存続会社)の株主、取締役等に加え、合併を承認しなかった債権者も該当します。個別の催告を受けられず、合併に異議を述べる機会を与えられなかった等の事情があれば、そのような債権者も上記「合併を承認しなかった債権者」に含まれるものと考えられています。

2. 合併する際の債権者保護手続きの手順

次に、合併の際に行われる債権者保護手続きの手順を解説します。債権者保護手続きは主に、下記の4つのプロセスを経て完了します。

2-1. 官報による公告

合併における債権者保護手続きで、最初にすべきことは官報による公告です。公告には以下の内容を記し、官報に掲載します。
ただし、申請から掲載までは1週間程度かかるため、それを考慮したうえで異議申し立ての期間を設けておかなければなりません。

【吸収合併の場合】

  • 吸収合併をする旨
  • 合併相手の商号や住所
  • 法務省令で定める消滅会社と存続会社の計算書類に関する事項
  • 債権者が一定期間(1ヶ月以上)内に異議を申し立てられる旨

ちなみに官報による公告は、消滅会社と存続会社の双方が共同で行うことも可能です。

【新設合併の場合】

  • 新設合併をする旨
  • 消滅会社および新設会社の商号や住所
  • 法務省令で定める消滅会社などの計算書類に関する事項
  • 債権者が一定期間(1ヶ月以上)内に異議を申し立てられる旨

2-2. 債権者への個別催告

官報による公告とは別に、知れたる債権者に対して個別に催告を行います。「知れたる債権者」とは、債権額の大小に関わらず、あらゆる債権者のことです。
会社側が認識しているすべての債権者に対し、合併を行う旨を郵送などで行います。ただし、催告期間は1ヶ月以上なければならないため、個別催告を郵送で行う場合は、到着までの期間も考慮したうえで催告期間を設けるように留意が必要です。

2-3. 合併に異議を申し立てた債権者への弁済

官報による公告や知れたる債権者に対する個別催告により、合併に異議を申し立てた債権者が現れた場合は、以下の3つのなかから弁済方法を選択し、実行しなければなりません

  • 合併に関わっている会社による債権の弁済
  • 合併に関わっている会社による債権者への担保の提供
  • 債権者への弁済を目的とした資産の信託

ただし、催告期間中に異議申し立てが無かった場合は、債権者が合併を承認したものとみなします。その際は、こうした債務の弁済を行う必要はありません。

2-4. 組織再編完了の登記

合併の効力発生日までに債権者保護手続きを済ませたら、効力発生日から2週間以内に、管轄の法務局で登記を行います。
登記を行うための変更登記申請書には、登記の事由や登記すべき事項などの必要事項を記載したうえで、収入印紙を貼り付けて提出します。
申請書を提出する際は、債権者保護手続きに関する官報公告や個別催告を証明する書面などを添付しなければなりません。登記が無事に済んだら、すべての手続きは完了です。

3. 債権者保護手続きの個別催告を省略する方法

債権者保護手続きは、上述のように官報公告と並行して、知れたる債権者に個別催告を行わなければなりません。しかし、債権者全員に郵送などで通知するのは、手間もコストもかかり大変です。
そこで、個別催告を省略し、別の手続きに代替する方法について解説します。

3-1. 官報と日刊新聞などでダブル公告を行う

知れたる債権者全員に個別催告を行うのは、多大な労力と費用がかかります。そのため、個別催告に代えて、日本経済新聞をはじめとする日刊新聞もしくは電子公告で、債権者に催告を行うことが会社法で認められています
後述の方法により公告の方法を変更し、官報とこれらの媒体で双方に公告する「ダブル公告」を行えば、個別催告が省略できます。

3-2. 公告の変更方法

個別催告に代えて日刊新聞や電子公告で催告を行うためには、定款に、日刊新聞や電子公告で公告を行う旨を定めていなければなりません。したがって、個別催告を省略する際は、まず定款の変更が必要です。
改める場合は、株主総会の特別決議により定款の公告方法を変更し、官報に公告する前までに、公告方法を「日刊新聞等」とする旨の変更登記を行わなければなりません。
変更登記が無事に完了すれば、債権者保護手続きを、官報での公告と日刊新聞(もしくは電子公告)での催告で済ませることが可能です。

4. 合併で債権者保護手続きをする際の注意点

最後に、合併で債権者保護手続きを行う場合に、注意すべきことについて解説します。特に重要なのは、以下の3点です。

4-1. 余裕のある異議申立期間を設ける

債権者保護手続きは、官報に公告したあと、最低でも1ヶ月は異議申し立ての期間を設けなければなりません。しかしながら、先述のとおり、官報に申し込んでから実際に掲示されるまでには、1週間程度の期間が必要です。
債権者保護手続きのスケジュールがタイト過ぎると、異議申し立ての期間が1ヶ月を割ってしまう恐れがあります。万が一そうなると、もう一度手続きをやり直したり、最悪の場合、合併そのものが無効になったりする可能性が生じます。
また、債権者保護手続きは、合併の効力発生日前までに完了していなければなりません。異議申し立て期間がずれてしまうと、合併手続きそのものが法的効力を持たなくなってしまいます。
したがって、債権者保護手続きを問題無く進めるためには、余裕のあるスケジュールで異議申立期間を設けることが大切です。

4-2. 個別催告の漏れが無いように注意する

知れたる債権者に対して行う個別催告は、すべての債権者に行き渡らないケースがあります。取引先が多かったり、債権があまりにも少額だったりした場合、チェックリストから漏れてしまうことがあるからです。
たとえ少額であっても、個別催告の対象から外れてしまえば、債権者が合併無効を裁判所に訴えることができます。そうなれば、合併そのものが無効となり、はじめからやり直さなければならない事態が生じてしまう可能性があります。
こうしたリスクを回避するには、少額の債権者であっても漏れの無いように、細心の注意を払わなければなりません。先述の方法により定款で公告方法を変更し、官報による公告と、日刊新聞等を用いる「ダブル公告」にしておくのが良いでしょう。

4-3. 債権者保護手続き完了の書類が準備できてから登記を行う

合併手続きが完了したら登記を行う流れですが、その際は、債権者保護手続きがすべて完了している書類を添付しなければなりません。
債権者保護手続きに関する書類を作成する前に登記申請をしてしまうと、日程がずれてしまった場合、合併そのものをやり直すことになりかねません。
したがって、債権者保護手続きをスケジュール通りに適正に実施し、完了を確認したうえで、その旨を証明する書類を作成し、それから登記の準備をしたほうが良いでしょう。

5. まとめ

合併による組織再編は多くの企業で行われていますが、合併を法的に成立させるためには、債権者保護手続きを行わなければなりません。
一般的に、債権者保護手続きは官報による公告と個別催告が求められますが、官報には実際に記載されるまでのタイムラグがあるため、日程は十分に取っておいたほうが良いです。
また、個別催告は知れたる債権者全員に郵送等で行われるため、手間やコストがかかります。催告漏れがあった場合は、合併そのものが取り消されてしまう恐れがあるため、合併を行う際は、専門家のアドバイスを受けながら進めていくことを推奨します。
M&Aキャピタルパートナーズは、東証プライム上場のM&A仲介会社です。弁護士や公認会計士、税理士などの専門家も多数在籍しています。合併時の債権者保護手続きについて、疑問や不安のある方は、どうぞお気軽にお問い合わせください。

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監修者プロフィール
M&Aキャピタルパートナーズコーポレートアドバイザリー部長 梶 博義
M&Aキャピタルパートナーズ 
コーポレートアドバイザリー部長
公認会計士梶 博義

大手監査法人、事業承継コンサルティング会社を経て、2015年に当社へ入社。
これまで、監査、IPO支援、財務DD、親族承継・役職員承継コンサル等を経験し、当社入社後はM&Aアドバイザーとして活躍。一貫して中小企業の支援に従事し、M&Aのみならず、事業承継全般を得意とする。

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