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国際財務報告基準(IFRS)が日本においても普及していく中で、企業の実態をより正確に把握するための財務情報として包括利益の考え方が重要視されてきています。今回は、包括利益の定義、包括利益と損益計算書(P/L)・貸借対照表(B/S)の関係、包括利益の導入背景と国際財務報告基準(IFRS)との関係、M&A(Mergers and Acquisitions、合併・買収)における包括利益について詳しく説明します。
目次
1. 包括利益の概要
1-1. 包括利益とは?
包括利益は、企業の利益に関する情報をより広範囲に捉えるための会計指標です。従来の純利益は、主に通常業務から生じる収益や費用を反映していました。しかし、包括利益はこれに加え、その他の包括利益といわれる、投資有価証券の含み損益、土地の含み損益、繰延ヘッジ損益、為替換算調整勘定など、まだ確定していない損益である「その他包括損益」を合計したものとなります。これにより、企業の真の業績や財務状態をより総合的に把握することが可能となります。
具体的な計算式は以下のとおりです。
「包括利益=当期純利益 + その他の包括利益」
また、包括利益を財務諸表に表示する方法は、以下の2種類あります。
1計算書方式:当期純利益と包括利益を「損益及び包括利益計算書」の1つにまとめて表記する。
2計算書方式:当期純利益と包括利益を、それぞれ「損益計算書」と「包括利益計算書」の2つに分けて表記する。
2. 包括利益と損益計算書(P/L)・貸借対照表(B/S)の関係
損益計算書(P/L)は、一定期間内の企業の収益と費用を示し、その差分として純利益または純損失を示すものです。一方、貸借対照表(B/S)は、特定の時点での企業の資産、負債、純資産の状態を示すものです。
包括利益は、純利益にその他包括損益を加えたものとして計算されます。そして、この包括利益は、B/S上の純資産の変動を説明する要素として位置づけられます。従って、包括利益はP/LとB/Sをつなぐ架け橋とも言える概念となっています。
3. 包括利益がなぜ導入されたのか、国際財務報告基準(IFRS)との関係
包括利益の導入の背景には、グローバルな経済活動の中での会計基準の統一が求められていたことがあります。国際会計基準委員会(IASB)が策定する国際財務報告基準(IFRS)は、国際的な取引や投資を行う際の透明性と比較可能性を高める目的で導入されました。
日本は、このIFRSの適用を進める中で、包括利益の概念を取り入れました。IFRSにおいては、企業活動の結果としての変動を全体的に捉えるための指標として、包括利益が位置づけられています。
4. M&A(Mergers and Acquisitions、合併・買収)における包括利益
M&Aの実施過程においても、包括利益は重要な役割を果たします。買収対象となる企業の真の価値を評価する際、従来の純利益だけでなく、その他包括損益を含めた総合的な業績を把握することが求められるためです。
M&Aの成功は、買収対象の正確な価値評価に大きく依存しています。そのため、包括利益を正確に理解し、適切に評価することは、M&A戦略の成功を左右する重要な要素となります。
5. まとめ
このように、日本の包括利益の概念導入は、グローバルな経済活動の中での透明性と比較可能性の追求、および真の企業価値の把握という要請に応えるものです。P/LとB/Sの関連性を示し、企業の総合的な業績を示すこの指標は、M&Aを含めた経営戦略を進める上でも欠かせない要素となっています。