M&Aによる多角化戦略とは? 種類やメリット・デメリット、成功させるポイントについて解説

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事業の拡大を目指しながら、リスクをコントロールするために、多くの企業では多角化戦略がとられています。多角化戦略の実施にはいくつかの方法があり、近年脚光を浴びる機会が増えているのは「M&Aを活用した多角化戦略」です。
そこで本記事では、M&Aによる多角化戦略の特徴や種類、メリット・デメリットについて詳しく解説します。成功させるポイントや国内企業の事例も紹介していますので、多角化戦略を検討している経営者様は、最後までご参照ください。

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1. M&Aによる多角化戦略とは

冒頭で述べたように、多くの企業ではM&Aによる多角化戦略が導入されています。この章では、M&Aによる多角化戦略の特徴を整理したうえで、多角化戦略にはどのような種類があるのかを解説します。

1-1. M&Aによる多角化戦略の特徴

多角化戦略とは、企業が行う成長戦略の一つで、市場に新たな製品やサービスなどを投入し、複数の事業を同時に展開していく戦略のことです。
経営学者のイゴール・アンゾフ氏が提唱した「成長マトリクス」によると、企業の成長戦略は「製品」と「市場」の組み合わせによって4つの領域に分類され、その一つが「多角化戦略」であるといわれています。

アンゾフの成長マトリクス

多角化戦略をM&Aで実施する場合は、現行の事業を買収して自社に取り込むため、通常の多角化戦略と比べ、短期間での事業拡大が実現できるという特徴があります。
また、通常であれば現行の事業の技術やノウハウを転用し、周辺分野へ参入することが多いですが、M&Aによる多角化戦略の場合は、現行の事業と新規事業にどのような関係があるのかに関わらず実行できるところが特徴的です。

1-2. 多角化戦略の種類

次に、多角化戦略にはどのようなものがあるかについて解説します。多角化戦略は主に、以下の4つの種類があります。

水平型多角化戦略

水平型多角化戦略とは、企業が保有する技術や生産ラインのような現行のリソースを転用し、新製品を現行の事業と類似する市場で展開していく戦略のことです。電機メーカーがゲーム機を製造・販売するケースなどが該当します。
水平型多角化戦略では現行のリソースが活用できるため、新たな設備投資の手間やコストが不要となる点がメリットとして挙げられます。
既に保有している顧客網や技術をそのまま利用できるので、収益化までのスピードが速く、リスクを抑えられる戦略であるともいえるでしょう。

垂直型多角化戦略

垂直型多角化戦略とは、現行の事業が展開している市場において、川上あるいは川下の事業を展開していく戦略のことです。例えば、外食チェーン店が食品の生産や加工を始めるように、生産から加工・販売までの、川上から川下までの流れを自社で展開することを目的としています。
垂直型多角化戦略は同一業界内における多角化のため、現行の事業の技術や知識を活用しやすく、事業間でのシナジー効果も生じやすい点がメリットとして挙げられます。
ただし、現行の事業の取引先である販売先や仕入先などと競合してしまう恐れがあるため、取引先との関係を踏まえたうえで展開しなければなりません。
業界全体の景気が冷え込んでしまった場合、現行の事業と新規事業の両方に悪影響が及んでしまう点にも注意が必要です。

集中型多角化戦略

集中型多角化戦略とは、自社の強みである特定の技術や経営資源などを活かした製品やサービスを新たな市場に投入し、事業の多角化を図る戦略のことです。例えば、レンズメーカーが光学技術を使って、医療機器を製造・販売することなどが該当します。
独自の経営資源を活用した事業展開ができるため、現行の事業と新規事業の両方で、他社との差別化を図れる点がメリットとして挙げられます。
戦略の成否は、自社の開発力や技術力によるところが大きいです。成功すれば、非常に高い収益が期待できるでしょう。

集成型多角化戦略

集成型多角化戦略とは、現行市場などとまったく接点の無い、新たな分野に事業を展開していく事業戦略のことです。コングロマリット型戦略とも呼ばれます。例えば、出版会社がファッション製品の製造・販売を行うケースなどが該当します。
現行の事業との関連性が低いため、自社のリソースをそのまま使うことは難しいでしょう。それでも、まったく関連性の無い分野なので、万が一の場合のリスクヘッジには非常に効果的です。

2. M&Aによる多角化戦略の種類

前述の多角化戦略を踏まえたうえで、本章では、M&Aによる多角化戦略の種類について解説します。先ほどの分類とは異なり、M&Aによる多角化戦略は、事業戦略によって以下の4種類に分けられます。

2-1. プラットフォーム戦略

プラットフォーム戦略とは、M&Aを活用して業界のプラットフォームを構築・拡充し、市場での優位性を強固にすることです。業界に便利な基盤を提供することで、自社のユーザーを増やし、ルールメーカーとしての地位を堅牢にしていきます。
GoogleやAppleなどのIT企業の基本戦略も、このプラットフォーム戦略を軸に展開しています。なお、プラットフォーム戦略は、大別すると以下の2タイプです。

  1. M&Aによってシェアを拡大し、自社が有利になる地位を構築する
  2. M&Aを連続的に行い、シナジー効果による利益の拡大を追求する

プラットフォーム戦略に成功すると、顧客の囲い込みや新規顧客の取り込みにおいて、圧倒的に優越的な地位を独占できるようになります。

2-2. コングロマリット戦略

コングロマリット戦略とは、企業グループ内を多業種の事業で構成することです。&Aを積極的に活用し、現行の事業や製品と関連性の低い企業や事業を自社グループ内に取り込み、シナジー効果が創出しやすいように配置しながら事業展開を行います。
コングロマリット戦略では、事業規模の拡大によるシナジー効果や経営資源の強化、リスクの分散など、多くのメリットが期待できます。
ただし、企業間での連携がうまくいかないと狙い通りのシナジーが得られず、かえって経営効率が低下するリスクが生じることがあるため、留意が必要です。

2-3. 事業ポートフォリオ転換戦略

事業ポートフォリオ転換戦略とは、複数の事業を持つ企業がM&Aを活用し、企業買収や売却を実施することでグループ内の組織再編を積極的に行い、より効率的な経営を行うことをいいます。
グループ内の企業を常に入れ替えていくため、時代の変化に柔軟に対応することが可能です。創業時の業種にこだわらず、生き残りと成長を目的に事業編成を変えていく、経営戦略の一つといえます。

2-4. マルチアライアンス戦略

マルチアライアンス戦略とは、複数の企業が業務提携しながら事業展開を進めていく経営戦略のことです。業務提携や合弁会社設立などが該当します。
通常のM&Aと比べると、少ない投資額で迅速に実行することが可能です。資本の結びつきが薄いため、企業の独立性を維持しながら市場優位性を確立できるメリットもあります。
ただし、マルチアライアンスを解消する際には、ノウハウや技術などが他社に流出する恐れがあるため、こうした点には注意しておかなければなりません。

3. M&Aによる多角化戦略を行うメリット・デメリット

M&Aによる多角化戦略には、さまざまなメリットがある反面、気を付けるべきデメリットもいくつかあります。そこで本章では、M&Aを軸に多角化戦略を実施した場合のメリットとデメリットを紹介します。

3-1. M&Aによる多角化戦略のメリット

はじめに、M&Aによる多角化戦略のメリットについて解説します。主なメリットは、以下の3つです。

短期間で多角化を達成しやすい

一つ目のメリットは、短期間に多角化経営を実現しやすい点です。自社で新規事業を立ち上げたり、新たに起業したりする場合は、事業が軌道に乗るまでに数年から数十年が必要になります。
これに比べて、M&Aの場合は既に実績があり、市場でのシェアもある程度押さえている企業を買収するため、短期間での収益化やシェア拡大など、多角化の目標が達成しやすくなります。
また、買い手の持つ技術やノウハウ、優秀な人材や販売網なども存分に活用できるため、自社のリソースとかけ合わせれば、シナジー効果の創出も期待できるでしょう。

リスクを軽減できる

2つ目のメリットは、失敗のリスクを軽減できる点です。
多角化の大きなメリットには、シナジー効果の創出が挙げられますが、現行の事業とは異なる新たな分野への進出には、常にリスクが伴います。また、収益化までの時間やそのためのコストを正確に見積もることは、容易ではありません。
一方で、M&Aを活用して多角化を行えば、既に確立された企業(事業)を取り込むことができるため、失敗のリスクを大幅に軽減することができます。
材料などの仕入や配送、総務や経理といった管理部門の共通化などを行えば、シナジー効果の予測もしやすいため、さらなる事業展開や多角化への計画も立てやすくなります。

他社の経営資源を活用できる

3つ目のメリットは、他社の経営資源を存分に活用できることです。M&Aによる多角化を実施した場合、売り手企業が有する技術力や独自のノウハウ、優秀な人材や設備などの経営資源を利用できます。
特に、技術やノウハウに関しては、これらをゼロから構築するには多くの時間と労力が必要となるため、既に確立されたものを取り込めるのは、非常に大きなメリットです。
また、他社の経営資源を取り込むことで自社の弱みを補完でき、スピーディーかつコストを抑えた、新たな技術やアイデアの創出につながることも期待できます。

3-2. M&Aによる多角化戦略のデメリット

続いては、M&Aによる多角化戦略のデメリットについて解説します。主なデメリットは、以下の3つです。

多くの資金が必要となる

一つ目のデメリットは、多額の資金が必要となることです。
M&Aを活用した多角化を展開していくためには、多くの買収資金を要します。一般的に、企業買収に必要な資金は対象企業を買い取るための買収資金だけでなく、仲介会社へ依頼する際の手数料やデューデリジェンス費用など多岐にわたるため、十分な資金を用意しておかなければなりません。
また、多額の資金を投資したとしても、投資資金を回収するまでに時間がかかり過ぎてしまうと、資金繰りに影響が及んでしまうため、慎重に進めましょう。

経営効率が低下する可能性がある

2つ目のデメリットは、経営効率が低下する可能性があることです。M&Aによって多角化を図る場合、企業買収のプロセスで非常に多くの手続きが必要となります。
こうした作業が煩雑になり、結果として現行の事業の業務や管理に混乱が生じると、企業全体の経営に悪影響が及ぶ可能性があります。
また、現行の事業と異なる業種や業態の企業(事業)を取り込んだ場合、人事や総務、経理などのバックオフィスを分離させる必要が生じることも考えられるでしょう。
M&Aでは人事や総務などの管理部門を共通化し、コストダウンを行うのがシナジー効果創出の常套手段です。一方で、多角化戦略により経営管理が統合できなくなり、単一事業での場合と比べ、会社全体の経営効率が悪化する場合があります。

PMIに手間と労力が必要となる

3つ目のデメリットは、PMIに手間と労力が必要となることです。M&Aを実施すると、対象企業と買い手との間でPMI(統合手続き)を行わなければなりません。
PMIは企業文化や経営方針、組織体制や業務フローなど、ありとあらゆるものが対象になるため、その手続きは複雑かつ多岐にわたります。
「M&Aの成功は、PMIにかかっている」といわれるほど重要なプロセスなので、PMIは慎重に進めなければなりません。M&A成立後にも、多くの時間と労力が必要になるという点も理解しておきましょう。

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4. M&Aによる多角化戦略を成功させるポイント

M&Aによる多角化戦略を成功させるポイントのうち、特に重要なのが以下の4つです。

4-1. 既存事業と関連が高い事業から始める

一つ目のポイントは、既存事業の周辺の事業からスタートすることです。多角化経営には上述のデメリットが伴うため、できるだけリスクの少ない方法で始めることを検討したほうが良いでしょう。
リスクを減らすためには一般的に、現行の事業と関連性の高い事業から開始するのが望ましいといわれています。関連性が高ければ、社内のリソースや現行の技術、既に展開している市場などを活用しやすいため、失敗のリスクを最小限に抑え、成功の確率を上げることができるからです。

4-2. 自社に見合った規模での投資にする

2つ目のポイントは、自社の事業規模に見合った投資を行うことです。
M&Aによる多角化戦略を進めるためには、買収規模に釣り合う資金が必要になります。額が多すぎる投資を行うと、1度の失敗が致命傷となることもありますし、逆に少なすぎると、リターンとして得られる収益も限られてしまいます。
したがって、自社の規模や資金調達力に見合った投資額がどれくらいかを考えたうえで、効果的なM&Aを実施することが大切です。

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4-3. 企業理念に則した戦略を実行する

3つ目のポイントは、企業理念に則した戦略を実行することです。多角化戦略を進めていくと、方向性を見失い、グループ全体としての一貫性が保てなくなる場合があります。
部門別や企業別で見れば、それぞれの戦略に整合性があったとしても、グループ全体の一貫性が保てなければ、企業グループとしての事業展開やシナジー効果の創出が見込めなくなってしまいます。
こうした状況を防ぐためには、常に企業理念に立ち返り、それに則した戦略を立案して実行することが肝要です。多角化戦略そのものが目的化しないように、何のための多角化戦略なのかを常に考えながら施策していかなければなりません。

4-4. シナジー効果を生み出せる相手を選ぶ

4つ目のポイントは、シナジー効果の創出が起こりやすい相手を選ぶことです。M&Aを活用して多角化戦略を進めるためには、シナジー効果の創出が重要です。
相手とのマッチングによってシナジー効果がどれくらい創出されるかが決まるため、こうした相手をM&Aで買収できれば、既存の市場での地位を高めつつ、新たな市場への進出も可能になります。
ただし、M&Aのマッチングは仲介会社次第で大きく変わるため、仲介会社を選ぶ際には十分に検討を重ね、シナジー効果が創出できそうな会社を選択することが大切です。

5. M&Aによる多角化戦略を実施した事例

最後に、M&Aによる多角化戦略を実施した事例を3つ、以下に紹介します。

5-1. 楽天グループ

M&Aによる多角化戦略を推し進め、日本を代表する企業の一つとなったのが、楽天グループです。もともと楽天市場から始まった楽天グループは、買収と合併によりさまざまな事業展開を進めていきました。
買収・合併を実施した主な企業名と現在の事業名は、以下のとおりです。

  • DLJディレクトSFG証券 → 現:楽天証券
  • あおぞらカード → 現:楽天カード
  • イーバンク銀行 → 現:楽天銀行
  • ビットワレット → 現:楽天Edy

また、自社で事業を起こした楽天トラベルに関しても、2003年にマイトリップ・ネット株式会社を子会社化することで、さらなる事業の増強や拡充を実現しています。
生活に関するあらゆるサービスをグループ事業内に取り込み、「楽天経済圏」とまでいわれるほどに成長を遂げた背景には、楽天グループによる積極的なM&Aの実施があったといえます。

5-2. ソニーグループ

ソニーグループも、M&Aによる多角化戦略を実施した有名企業の一つです。もともとは電化製品事業を行っていたソニーでしたが、多角化戦略をとるにあたり、まず現行の事業で培った技術力を活かせる分野への進出から着手します。
ソニーには電化製品の製造で培ったハード面のノウハウがあったため、ソフトウェア事業を営む企業を積極的に買収し、ソフト面の技術の融合によるシナジー効果の発揮を狙いました。
その後は業種の垣根を越え、現在の「ソニー・ミュージックエンタテインメント」である音楽・映像領域のほか、ゲーム事業や金融事業へと多角化を進めています。

5-3. 富士フイルムホールディングス

写真フィルムを主力事業としていた富士フイルムは2000年頃、デジタル化の影響による市場縮小をきっかけに、多角化戦略に舵を切りました。
その結果、既存の技術を転用し、以下の事業領域での多角化を実現しました。

ヘルスケア 「予防」「診断」「治療」の3つの領域から、医療に関する製品・サービスの提供を行う
マテリアルズ 産業の効率化や社会のICT化推進を通じて、環境課題に取り組む
ビジネスイノベーション 働き方やDX(デジタルトランスフォーメーション)を促進する商品・サービスの提供を行う
イメージング 写真・画像・映像に関わる製品・サービスの提供を行う
参考:事業領域|富士フイルムホールディングス株式会社

※スライドしてご覧ください

現在も国内外で積極的なM&A戦略を実施しており、事業領域のさらなる深化や増強を図っています。

6. まとめ

企業の多角化戦略は、M&Aと非常に相性が良いといえます。自社単独であれば数十年かかることが、ほんの数年以内で実現できるため、変化の激しい現代においてM&Aを用いた多角化戦略は、とても効果的な手法といえるでしょう。
しかし、本記事で述べたように、M&Aによる多角化戦略にはデメリットや注意点も多いため、一歩間違えると、かえって企業の成長の足を引っ張る結果になりかねません。
M&Aによる多角化戦略を検討する際は、M&Aに詳しい専門家に相談しながら進めていくと良いでしょう。M&Aキャピタルパートナーズは、プライム市場に上場している仲介会社であり、弁護士や公認会計士などの専門家が数多く在籍しています。
M&Aによる多角化戦略について検討中の方は、どうぞお気軽にお問い合わせください。

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監修者プロフィール
M&Aキャピタルパートナーズコーポレートアドバイザリー部長 梶 博義
M&Aキャピタルパートナーズ 
コーポレートアドバイザリー部長
公認会計士梶 博義

大手監査法人、事業承継コンサルティング会社を経て、2015年に当社へ入社。
これまで、監査、IPO支援、財務DD、親族承継・役職員承継コンサル等を経験し、当社入社後はM&Aアドバイザーとして活躍。一貫して中小企業の支援に従事し、M&Aのみならず、事業承継全般を得意とする。

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