更新日
事業再生ADRについて
事業再生ADRとは事業再生の法的整理と私的整理のメリットを組み合わせ、裁判外手続き(ADR)によって債務者の事業再生を図る制度。通常の商取引と併行して進められるので、負担軽減が期待できる一方で、会社の信用保持にも寄与でき、第三者機関が介在するためトラブルを回避でき、公平性・信頼性が担保されるため、事業を迅速に再構築したい場合に向いた制度といえる。
事業再生ADRは、中立の立場の第三者が債権者と債務者との調整に入り、法的整理手続きによらずに事業再生計画を策定する制度です。双方の税負担を軽減でき、債務者に対するつなぎ融資など事業再生の円滑化が図られます。
本記事では、「事業再生とは?」の基本的な理解を踏まえたうえで、事業再生ADRの意味や現状と共に、メリット・デメリット、手続きの流れや成功事例を解説します。
事業再生手法の一種である再生型M&Aに関して、M&Aの基本や意味に関しては、以下の記事をご覧ください。
事業再生ADRとは?
事業再生ADRは、事業再生の法的整理と私的整理のメリットを組み合わせ、裁判外手続き(ADR)によって債務者の事業再生を図る制度です。
事業再生とは、過剰債務を負う債務者を倒産させることなく、債権者との調整によって事業を再構築する制度です。事業再生には、裁判所が関与する法的整理と、債権者と債務者の交渉によって手続きが進められる私的整理があります。
ADRとは、「Alternative Dispute Resolution」の略で、裁判外で法的問題を解決する手続きを意味します。
意味:民事再生法などを使わない債務整理
事業再生ADRとは、中立の立場に立つ第三者が、過剰債務を負う債務者と金融機関などの債権者との調整を行い、事業再生計画を策定する制度です。2007年の産業活力再生特別措置法改正によって成立し、2013年の産業競争力強化法制定で継承されました。
現在では、事業再生における法的整理と私的整理の長所を組み合わせたADRとして活用されています。具体的には、法的手続きを避けつつ事業価値を修復し、債権者と債務者の合意に基づいて債務の猶予・減免などを行い、経営困難な企業の再建を目指します。
現状:利用件数は限定的
現状において、事業再生ADRの利用件数は限定的にとどまっています。経済産業省の発表によると、令和3年3月までに手続き利用申請があったのは86件(269社)で、このうち60件(219社)において、債権者全員の合意に基づき事業再生計画案が成立しています。
実際には、大企業以外の利用が難しく、制度自体の知名度が低いため主要手段にはいたっておらず、利用件数は伸び悩んでいます。
※事業再生ADR制度について|経済産業省(外部リンク)
事業再生ADRのメリット
事業再生ADRの主なメリットは、次の5点です。
商取引に支障が出ない
事業再生ADRの最大のメリットは、商取引に支障が出ない点です。私的整理と同様、債権者と金融債務者の間で行われ、取引先には秘密裏に進めることができるからです。通常の商取引と併行して進められるので、負担軽減が期待できる一方で、会社の信用保持にも寄与します。
公平性・信頼性が担保される
事業再生ADRの実施においては、公平性・信頼性が担保される点もメリットといえます。通常、事業再生における私的整理は当事者同士の話し合いで進められるため、交渉途中に制約が生じたり債権者間で対立が起こったりする可能性があります。事業再生ADRでは第三者機関が介在するためトラブルを回避でき、公平性・信頼性が担保されるのです。
手続きが円滑に実施できる
手続きを円滑に進められ、比較的短期間で終了する点もメリットです。事業再生ADRは手続きの開始から終了まで約3ヶ月かかります。一般には、法的整理は約6ヶ月、私的整理は1年以上かかる場合もあるため、事業を迅速に再構築したい場合に向いた制度といえるでしょう。
つなぎ融資を受けられる
事業再生ADRでは、事業再生の要となる「つなぎ融資」を受けられるのも特長です。つなぎ融資とは、事業再生ADRの手続き中に必要な資金を、事業継続に欠かせない資金として借り入れる融資のことです。事業再生ADRを利用すれば金融機関から支援を受けやすくなり、円滑に事業再建を図れます。
税制優遇がある
事業再生ADRでは、債権放棄を伴う事業再生計画が成立した際は企業再生税制等が適用されます。債権者・債務者共に次の税制優遇措置を利用可能です。
- 債権者:債権放棄があれば寄付金ではなく損金として算入できるため、無税償却が可能
- 債務者:資産評定によって評価益、評価損を把握し、益金・損金として算入できる
事業再生ADRのデメリット
事業再生ADRの主なデメリットは、次の3点です。
債権者全員の同意が必要になる
事業再生ADRの成立には、債権者全員の同意が必要となる点には留意が必要です。事業再生ADRはADR手法の一例であり、裁判を伴わず債務者と債権者の話し合いで進行します。しかし、最終決議では全員の同意が必要となり、同意が得られない場合は、裁判所介入の法的整理へと移行します。
私的整理と比べて手続きが難しい
事業再生ADRは公平な第三者が仲介する手続きであるため、私的整理に比べて厳格さが求められ時間と手間を要します。法的整理に比べて柔軟性は出ますが、第三者仲介であるため私的整理より制約が生じてしまう点には気をつけましょう。
費用が高額になりやすい
事業再生ADRは、中立的な立場の専門家への依頼によって実施するため、費用が高額になりやすい点もデメリットです。代表的な第三者には、斡旋者である事業再生実務家協会や、事業再生計画の作成を受託する弁護士・専門家が挙げられます。
手続きには、審査料・業務委託金・業務委託中間金・報酬金が生じるため、総じて高額になりやすい傾向があります。計画作成やデューデリジェンスにかかる費用も高額なため、つなぎ融資をうまく活用しながら手続きを進める必要があるでしょう。
事業再生ADRを利用するための条件
事業再生実務家協会では、事業再生ADRを利用するための条件として次の5つを掲げています。
- 過剰債務によって経営が困難な状況であり、自力での再生が困難であること
- 技術や人材などの事業基盤を有し、事業に収益性と将来性があり、債権者からの支援で事業再生の可能性があること
- 民事再生法や会社更生法などの整理手続き申立てにより、信用力低下をもたらし、事業価値が著しく毀損されるなど、事業再生が滞るおそれがあること
- 事業再生ADRによって、債権者が破産手続きよりも多く回収できる可能性があること
- 手続実施者選任予定者の意見や助言に基づいて、公正かつ経済的合理性を有する事業再生計画案の策定可能性があること
事業再生ADRの手続き・申請の流れ
事業再生ADRの手続きや申請は、次の流れに沿って実施されます。
STEP1.事前準備
事業再生ADRの申請を出す前に、事前準備を行います。過剰債務の状況を示すためにデューデリジェンスを実施したり事業計画書を策定したりするなど、書面資料も揃えます。
なお、デューデリジェンスの書類には資産評定や貸借対照表、損益計画、弁済計画、事業再生計画案が含まれ、これらの書類は弁護士や専門家に依頼して作成します。
STEP2.申請
事業再生実務家協会への申請は、まずは事前相談によって行われ、続く事前審査によって事業再生の可能性が判断されます。デューデリジェンスや計画策定など準備しておいた書類を申請時に利用すると、スムーズに審査を進められます。
STEP3.一時停止の通知
申請受理後、事業再生実務家協会と債務者が連名で「一時停止通知」を対象となる債権者に発送します。これにより、債務者は債務を一時的に免除され、債権者は個別の債権回収や担保設定ができなくなります。同時に、債権者集会を開催して、話し合いの機会を持つように促すこともできる重要な手続きです。
STEP4.債権者会議
債権者の同意を得るために、全債権者に対する債権者会議を3回実施します。原則は一時停止通知の発送から2週間以内に1回目が開催されます。債権者会議で審議される内容は次のとおりです。
- 第1回:事業再生計画案の説明と議長選出
- 第2回:事業再生計画案の協議
- 第3回:決議
第3回の債権者会議での決議において、債権者全員が同意であれば私的整理が成立します。ただし、1人でも反対者が出た場合や、全債権者からの同意を得られず不成立の場合には、法的整理か調停へ移行します。
事業再生ADRに成功した企業事例
ここからは、事業再生ADRに成功した2つの企業事例を紹介します。事業再生ADRを検討する際の参考にお役立てください。
事例1.曙ブレーキ工業
曙ブレーキ工業株式会社は、北米との取引失敗による業績不振から資金繰りが悪化し、2019年に事業再生ADRを申請しました。その結果、国内外の6工場の閉鎖や、全世界において3,000人に及ぶ従業員整理を計画し、借入金返済の一次停止を実施。同年9月、計画承認で事業再生ADRが成立しました。
取引のあった37行もの金融機関が債権放棄に応じ、総額560億円もの債務免除を達成。事業再生ファンドより総額200億円の資金調達に成功して、事業を立て直しました。
事例2.ダイヤゼブラ電機
太陽光発電事業をリードしてきた田淵電機株式会社(現:ダイヤゼブラ電機株式会社)は、2018年に事業再生ADRを申請し、約49億円の債務免除と約40億円の返済猶予を受けました。
当該事例の成功要因は、同じ拠点であり以前から取引のあったダイヤモンド電機がスポンサーとして名乗りを上げたことが挙げられます。2019年には、ダイヤモンドエレクトリックホールディングスの完全子会社となり、2021年には吸収分割によって、田淵電機の商号をダイヤゼブラ電機株式会社へと変更しています。
まとめ
事業再生ADRは、中立の立場の第三者が債権者と債務者の調整に入り、法的整理手続きによらずに事業再生計画を策定する制度です。事業再生ADRを実行すれば、事業の公平性・信頼性を担保しながら商取引を行うことができ、つなぎ融資や税制優遇を受けられるなど、当事者にとってメリットの大きな制度であるといえます。
しかしながら、債権者全員の同意が必要であり、手続きも煩雑であるために実施の難易度が高く、利用件数は限定的にとどまっています。
基本合意まで無料
事業承継・譲渡売却はお気軽にご相談ください。
よくある質問
- 事業再生ADRとはどのような制度ですか?
- 事業再生ADRは、法的整理と私的整理のメリットを組み合わせ、中立の第三者が債権者と債務者の調整を行い、裁判外手続きで事業再生計画を策定する制度です。法的手続きを避けつつ、債務の猶予や減免などを合意ベースで進める仕組みです。
- 事業再生ADRを利用するための条件は何ですか?
- 事業再生実務家協会が定める条件は、過剰債務で自力再生が困難であること、事業基盤や収益性・将来性があること、法的整理では事業価値が毀損するおそれがあること、債権者が法的整理より多く回収できる可能性があること、公正で合理的な事業再生計画案を策定できることの5点です。
- 事業再生ADRの主なメリットは何ですか?
- 商取引に支障が出ない、公平性・信頼性が担保される、手続きが短期間で進められる、つなぎ融資を受けられる、税制優遇があるなどのメリットがあります。
- 事業再生ADRのデメリットは何ですか?
- 債権者全員の同意が必要であること、私的整理より手続きが厳格で難しいこと、審査料や業務委託金など費用が高額になりやすい点がデメリットとして挙げられます。
- 事業再生ADRの手続きはどのような流れで進みますか?
- 事前準備(デューデリジェンス等)→申請→一時停止通知の発送→3回の債権者会議(説明・協議・決議)という流れで進みます。債権者全員の同意が得られた場合に成立します。
- 事業再生ADRにはどれくらいの期間がかかりますか?
- 事業再生ADRは開始から終了まで約3ヶ月で進むとされており、法的整理の約6ヶ月、私的整理の1年以上と比較すると短期間での再建が可能です。
- 事業再生ADRにかかる費用にはどのようなものがありますか?
- 審査料50万円(税別)のほか、業務委託金、業務委託中間金、報酬金が必要です。これらは債権者数や債務額に応じて設定され、総じて高額になりやすい傾向があります。
M&Aを流れから学ぶ
(解説記事&用語集)
M&A関連記事
M&A基礎
目的別M&A
- 事業承継とは
- 事業承継とM&Aの違い
- 事業承継M&A
- 「事業承継」と「事業継承」の違い
- 事業承継問題
- 後継者不足の実態
- 事業承継における課題
- 事業承継対策の必要性
- 事業承継を実施するタイミング
- 事業承継の流れ
- 事業承継計画
- 事業承継計画書の記載項目
- 事業承継のチェックリスト
- 事業承継における後継者選定
- 事業承継における後継者育成
- 親族内承継
- 親族外承継
- 従業員への事業承継
- 第三者承継
- 親族内承継と第三者承継の比較
- 後継者のいない会社を買う
- 事業承継の主要スキーム比較
- 持株会社を活用した事業承継
- 事業承継信託
- 事業承継ファンド
- 医療法人の事業承継
- 事業承継に向けた資金調達方法
- 事業承継補助金
- 事業承継で活用できる融資
- 事業承継における生命保険
- 事業承継税制
- 事業承継の税務対策
- 事業承継と資産移転
- 事業承継時の消費税の取扱い
- 承継時の債権・債務の取扱い
- 地位承継
- 包括承継
- 許認可の承継
- 株式相続
- 株式の贈与
- 自社株贈与
- 事業承継士
- 事業承継の専門家
- 事業承継コンサルティング
- 事業承継特別保証制度
- 事業承継に潜むリスクと対策
- 事業承継に伴う労務管理リスク
- 会社売却と事業承継の違い
M&Aスキーム
M&Aプロセス
企業価値評価
M&Aリスク
デューデリジェンス
M&Aファイナンス
M&A税務
M&A法務
用語・その他
- バスケット条項
- 当期純利益
- 資産除去債務
- XBRL
- 特別決議
- 譲渡承認取締役会
- 大量保有報告
- 適時開示
- 法務のポイント
- インサイダー取引
- チャイニーズ・ウォール
- 匿名組合
- キラー・ビー
- クラウン・ジュエル
- グリーン・メール
- ゴールデンパラシュート
- ジューイッシュ・デンティスト
- スタッガード・ボード
- スケールメリット
- ストラクチャー
- 利益相反
- 源泉徴収
- プロキシー・ファイト
- パールハーバー・ファイル
- Qレシオ
- MSCB
- IFRS
- 現物出資
- コントロールプレミアム
- ゴーイング・プライベート(Going Private)
- バックエンド・ピル
- パックマン・ディフェンス
- EV(事業価値)
- 売渡請求
- 株主価値
- レバレッジ効果
- 減損価格
- アーンアウト
- シャーク・リペラント
- スーイサイド・ピル
- ティン・パラシュート
- 低廉譲渡
- 監査法人
- 相対取引
- 範囲の経済
- アナジー効果
- 債券
- 純有利子負債(ネット デット)
- ホールディングス
- COC条項(チェンジ・オブ・コントロール条項)
- ディスクロージャー
- 会社法
- ROA(総資産利益率)
- 国際租税条約
- 役員報酬
- SWOT分析
- アンゾフの成長マトリクス
- サクセッションプラン
- ドラッグアロング
- 累進課税
- 総合課税と分離課税の違い
- キャピタルゲイン
- インカムゲイン
- 資本と負債の区分
- 益金不算入
- タックスシールド
- 繰越欠損金
- スタンドアローン・イシュー
- ロックド・ボックス方式
- 特定承継
- プットオプション
- 埋没費用(サンクコスト)
M&Aキャピタルパートナーズが
選ばれる理由
創業以来、売り手・買い手双方のお客様から頂戴する手数料は同一で、
実際の株式の取引額をそのまま報酬基準とする「株価レーマン方式」を採用しております。
弊社の頂戴する成功報酬の報酬率(手数料率)は、
M&A仲介業界の中でも「支払手数料率の低さNo.1」を誇っております。
-
明瞭かつ納得の手数料体系
創業以来変わらない着手金無料などの報酬体系で、お相手企業と基本合意に至るまで無料で支援致します。
- 関連ページ -
-
豊富なM&A成約実績
創業以来、国内No.1の調剤薬局業界のM&A成約実績の他、多種多様な業界・業種において多くの実績がございます。
- 関連ページ -
基本合意まで無料
事業承継・譲渡売却はお気軽にご相談ください。
