競業避止義務とは? 法的効力や違反事例、M&A・退職時の判断基準を解説

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競業避止義務について

競業避止義務とは、M&Aにおいて売り手が一定期間・一定範囲で買い手と競合する事業を行わないよう制限する義務です。買収した事業の価値を守るために重要であり、特に事業譲渡では会社法上の根拠がある一方、株式譲渡や合併では契約による具体的な設定が実務上のポイントになります。

M&Aでは、事業を譲り受けた後に売り手が同じ分野で再び事業を始めてしまうと、買い手が期待した収益や顧客基盤が損なわれるおそれがあります。こうした事態を防ぐために重要となるのが競業避止義務です。とくに事業譲渡では会社法上の規定が存在する一方で、株式譲渡や合併、会社分割では契約による明確な取り決めが欠かせません。また、対象範囲や期間、従業員への適用、違反時の措置をどう定めるかによって、実効性や有効性は大きく変わります。

本記事では、「M&Aとは?」の基本的な理解を踏まえたうえで、M&Aにおける競業避止義務の法的規定や、実務におけるポイントを解説し、違反事例を紹介します。


M&Aにおける競業避止義務とは

M&Aにおける競業避止義務とは、売り手企業が買い手企業と競合する事業を、一定の期間および範囲において実施しないように制限する義務です。売り手企業が類似のビジネスを立ち上げることで、買収した事業の価値が損なわれる事態を防ぐために設けられます。

競業避止義務

「競業」とは、ここでは「営業上の競争」を意味し、会社法第21条には、事業譲渡において譲渡会社がこの義務を負うことが明記されています。M&Aの契約では、売り手企業に対してこの義務を明文化することが一般的です。違反があった場合には、競業行為の差し止め請求や損害賠償請求がなされる可能性があります。

自社の役員・従業員に対する競業避止義務との違い

競業避止義務は、M&Aだけでなく、自社の役員や従業員に対して設けられるものもあります。

自社の役員・従業員に対する競業避止義務は自社の機密情報やノウハウが流出しないために課される義務です。特に、取締役が無断で競業行為を行った場合、損害賠償請求や解任の対象となる可能性があります。また、離職後の従業員が在籍時に得たノウハウを活用して競業することを防ぐため、誓約書や社内規則で義務づけるのが一般的です。

一方、M&Aにおける競業避止義務は、売り手側の経営者が事業売却後に買い手側にとっての競争相手とならないよう、売り手側の経営者を制限するものです。契約に基づいて具体的な適用範囲や期間を設定する必要があります。

M&Aにおいて競業避止義務違反となる行為

以下のような行為は、M&Aにおける競業避止義務違反となります。

  • 売り手である対象会社の経営者・役員・従業員が、売却した会社と同じ事業の会社を営む
  • M&A成立後、売り手である対象会社の役員や従業員が競合他社で働く

例えば、買い手企業がアパレル業の企業を買収した直後に、売り手企業の経営者が近くで同じようなアパレル店を開いた場合、買い手の売上や顧客が奪われる可能性があります。このような行為は競業避止義務違反にあたり、契約内容によっては損害賠償を請求されることがあります

【M&Aのスキーム別】競業避止義務の規定

M&Aの手法によって、競業避止義務の適用範囲や法的規定は異なります。事業譲渡では会社法第21条による制約がありますが、会社分割や株式譲渡、合併では法的な競業避止義務は無く、契約による合意が必要です。

手法

法的規定の有無

期間の目安

事業譲渡

あり(会社法第21条)

最長30年

会社分割

なし

合意による

株式譲渡

なし

合意による

合併

なし

合意による

各スキームの競業避止義務について、より詳しく見ていきましょう。

事業譲渡の場合

会社法第21条により、事業譲渡を行った企業は、同一の市町村および隣接する市町村で、譲渡した事業と同じ事業を20年間行うことが禁止されています。

さらに、事業譲渡契約においては、競業避止義務の適用範囲や期間を特約で定めることが可能であり、最長30年間の義務を設定できます。近年ではインターネットの普及により地理的な競業範囲が広がるため、契約書において具体的な競業避止義務の範囲を明記することが重要です。

会社分割の場合

会社分割は、事業譲渡と同様に事業を他者へ承継する手法ですが、会社法上、競業避止義務の明確な規定は存在しません。

しかし、実務では、買い手の事業価値を保護するため、会社分割契約に競業避止義務を設けることが一般的です。特に分割後に売り手側の企業が類似事業を行う可能性がある場合、競業を防ぐための契約条項を明確に定めることが求められます。

株式譲渡・合併の場合

株式譲渡は、会社の支配権を移転する取引ですが、事業そのものの譲渡ではないため、法律上の競業避止義務はありません。同様に、合併では消滅会社の権利義務が存続会社に包括承継されるため、特別な競業避止義務の規定もありません。

ただし、買い手の事業を守るため、契約上で競業避止義務を設定するのが一般的です。特に、売り手側の経営者が競業を行うリスクがある場合には、競業範囲や期間を具体的に定めることが重要です。

M&Aにおいて競業避止義務を定める場合の注意点

M&A契約では、競業避止義務の適切な設定が重要です。ここでは、適正な競業避止義務を策定し、リスクを回避するためのポイントを解説します。

競業避止義務の適用範囲を明確に定める

競業避止義務の適用範囲を曖昧にすると、売り手と買い手の双方にとって不利益となる可能性があります。売り手は将来の事業展開が制限される可能性があるため、どの事業が競業にあたるのかの明確化が必要です。一方で買い手にとっては、競業避止義務が十分でなければ、M&Aの目的が損なわれるリスクがあります。

そのため、契約書には、どのような事業活動を競業とみなすのかについて、詳細に記載することが重要です。業種や業務内容はもちろん、競業を禁止する地域も具体的に定めることで、買い手の事業利益を適切に保護できます。

なお、M&Aの取引対象企業が市場で大きな影響力を持つ場合、競業避止義務の範囲が広すぎると独占禁止法に反する可能性があります。競業避止義務が過度に広範囲であると、不当取引制限や不公正な取引方法と判断される可能性があるため、法的リスクを十分に考慮しながら適用範囲を決定しましょう。

適切な期間を設定する

会社法上、事業譲渡における競業避止義務の期間は20年間と定められており、特約で最大30年間まで延長ができます。しかし、実務上は5~10年になることが多く、30年間と長期に設定されるケースは稀です。そのため、契約書の締結にあたって、買い手と売り手はお互いの事情を考慮して交渉のうえ、適切な期間を設定することになります。

売り手企業の従業員への競業避止義務の有効性について適切に判断する

M&Aにおいて、売り手企業の役員や従業員に競業避止義務を課す場合、その有効性を慎重に判断する必要があります。

役員については、在職中だけでなくM&A後の一定期間も義務が課されることが一般的です。経営層が事業の中核を担っていた場合、M&A後に競業行為を行うと、買い手の事業に大きな影響を与える可能性があるためです。

一方で、一般の従業員に対して義務を課すことには制約があります。日本国憲法で職業選択の自由が保障されているため、当然ながら退職後の競業を強制することはできません。

ただし、秘密保持や重要なノウハウの流出を防ぐ目的で、一定の範囲で設定することは可能です。 その際には、対象となる従業員の役職や業務内容、知り得る機密情報の重要性を考慮し、地域や期間、業務内容の範囲を適切に限定することが求められます

過度な制約を課すと無効と判断される可能性があるため、合理的な範囲内での設定が必要です。

違反した場合の罰則についても明文化しておく

競業避止義務の違反があった場合、競業行為の差し止めや、損害賠償請求ができる可能性があります。しかし、競業避止義務を契約書に定めていても、M&Aの実施後に同種の事業を開始する売り手もいます。その場合の対応として買い手は、競業避止義務の明文化に加え、契約違反をした場合の罰則を定めておく必要があります

M&Aで競業避止義務違反となった事例

競業避止義務の違反が発生すると、買い手企業の事業に深刻な影響を及ぼす可能性があります。過去に発生した具体的な違反事例を紹介し、どのような行為が問題となるのかを解説します。

事例1:ECサイトにおける違反事例

ある企業がECサイトを売却した後、すぐに同じ業種の新たなサイトを開設したケースです。この行為により、買い手企業の売上が減少し、大きな損害を被りました。

特に問題となったのは、売却したサイトの顧客リストを利用して営業をかけた点です。これは競業避止義務に違反するだけでなく、不正競争防止法にも抵触する可能性があります。実際に同様の内容が問題となった裁判においても、そのような可能性があると判断されました。

結果として、義務違反が認められ、新たに開設されたサイトの営業差止めと損害賠償請求が認められています。

事例2:クリーニング洗剤の販売事業における違反事例

ある企業(A社)がクリーニング用洗剤の販売事業を新会社へ譲渡した後、代表者が、譲渡した事業と酷似した商標の洗剤を販売し始めたケースです。

この行為は、譲渡後に同様の事業を開始し、さらに譲渡先の商標と酷似した名称の洗剤を販売するものとして、競業避止義務違反があると判断されました。

さらに、代表者は既に新会社の顧客となっていた企業との取引を再開したため、新会社は悪影響を受けました。新会社はA社に対し、商標を用いた洗剤販売の差止及び損害賠償を求め、提訴しました。

まとめ

M&Aにおける競業避止義務は、売り手企業が買い手企業と競合する事業を行うことに対して、制限を設けることです。これは、買い手の事業価値を保護し、売り手による不正な競争を防ぐために不可欠です。

競業避止義務を設ける際には、適用範囲や期間の設定、従業員への影響、違反時の罰則を明確にすることで、法的リスクを軽減できます。違反時の差止請求や損害賠償まで見据えて、適切な条項を整備することが、M&A後の紛争予防と事業価値の保全につながります。



よくある質問

  • 競業避止義務とは何ですか?
  • 競業避止義務とは、M&Aにおいて売り手が一定期間・一定の範囲で買い手と競合する事業を行わないよう制限する義務です。買収後に売り手が同様の事業を始め、買い手の事業価値が損なわれる事態を防ぐために設けられます。
  • M&Aにおける競業避止義務はどのような行為が違反になりますか?
  • 売り手である対象会社の経営者・役員・従業員が、売却した会社と同じ事業を営むことや、M&A成立後に売り手側の役員や従業員が競合他社で働くことなどが、契約内容によっては競業避止義務違反となります。
  • 事業譲渡では競業避止義務に法的根拠がありますか?
  • あります。事業譲渡では会社法第21条により、譲渡会社は同一の市町村および隣接する市町村で、譲渡した事業と同じ事業を20年間行うことが禁止されています。さらに特約により最長30年間まで延長することが可能です。
  • 株式譲渡や合併でも競業避止義務は適用されますか?
  • 株式譲渡や合併では、事業譲渡のような法律上の競業避止義務はありません。ただし、買い手の事業を守るため、契約上で競業避止義務を設定するのが一般的です。
  • 競業避止義務を契約で定める際に重要な点は何ですか?
  • 競業とみなす事業内容、禁止する地域、対象者、義務の期間を明確に定めることが重要です。範囲が曖昧だと紛争の原因になり、逆に広すぎると独占禁止法上の問題や無効リスクが生じる可能性があります。
  • 売り手企業の従業員にも競業避止義務を課せますか?
  • 役員には在職中だけでなくM&A後の一定期間も義務を課すことが一般的ですが、一般従業員には制約があります。職業選択の自由があるため、地域や期間、業務内容を合理的な範囲に限定して慎重に判断する必要があります。
  • 競業避止義務に違反した場合はどうなりますか?
  • 競業行為の差し止め請求や損害賠償請求がなされる可能性があります。そのため、契約書では競業避止義務の内容だけでなく、違反時の罰則や対応方法も明文化しておくことが重要です。

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