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DCF法について
DCF法(ディスカウント・キャッシュフロー法)は、企業価値評価における代表的な手法の一つです。DCF法では、企業の将来的なキャッシュフローに着目して、企業価値を評価します。
本記事では、「企業価値評価M&Aにおける企業価値評価(バリュエーション)とは?|詳細記事へ」の基本的な理解を踏まえたうえで、DCF法の基本的な算出手順や、活用するにあたっての注意点についても解説します。
M&Aの基本に関して詳しく知りたい方は、以下の記事もご覧ください。
DCF法による企業価値評価の手順
DCF法による企業価値評価は、予測期間の設定からフリーキャッシュフローの算出、割引率やターミナルバリューの計算を経て、最終的に株主価値を求める手順で進みます。
各ステップについて、詳しく解説します。
1.予測期間の設定
DCF法では、まず、将来キャッシュフローの予測期間を設定します。一般的には5年から10年程度のスパンが用いられますが、適切な年数は企業の事業特性や業界の状況によって変わります。
例えば、成熟した産業に属し収益基盤が安定している企業では5年程度の予測が適切です。一方、急成長が期待される新興企業や、新規事業への投資を多く行う企業では、7年から10年程度の予測期間が設定されることもあります。予測期間の決定にあたっては、事業計画の信頼性や具体性を確認し、予測の精度が高い期間のみに限定することが重要です。
業界のライフサイクルや技術革新の速度、競合の状況などの外部要因も考慮し、現実的な視点から妥当な期間を選ぶことが必要です。
2.将来のフリーキャッシュフローの算出
DCF法では、将来のフリーキャッシュフロー(FCF)を算出し、それを割引現在価値に換算することで企業価値を導き出します。この評価手法の根幹となるのが、各年度におけるキャッシュフローの適切な予測です。
FCFは、企業が事業活動を通じて創出した現金のうち、債務返済や株主への還元など自由に使える部分を示す指標であり、一般的には以下のような式で算出されます。
FCF = 営業利益 × (1 − 実効税率) + 減価償却費 − 設備投資額 − 運転資本の増加額
実務上は、3年から5年程度の中期事業計画を基礎としたうえで、損益計画に税金や減価償却、設備投資、運転資本の増減などの要素を反映させて計算します。
この予測は、あらかじめ設定する前提条件によって結果が大きく変わるため、評価者の考え方によって企業価値が左右されやすい点に注意が必要です。特に、対象企業が提出する事業計画には、楽観的な見通しが含まれている可能性も考えられます。そのため、事業計画の内容をそのまま受け入れず、デューデリジェンスを通じて前提の合理性を確認し、必要があれば修正を加えるプロセスが重要です。
3.割引率(WACC)の決定
DCF法では、将来のフリーキャッシュフローを現在価値に割り引くために、適切な割引率を設定する必要があります。一般的に割引率として用いられるのが「WACC(加重平均資本コスト)」です。WACCとは、企業が調達する資金のうち、株主からの資金と借入金のコストをそれぞれの割合に応じて加重平均したものです。
WACC = 株主資本比率 × 株主資本コスト + 有利子負債比率 × 税引後負債コスト
株主資本コスト
株主資本コストとは、株主が企業に資金を提供する際に期待する収益率のことです。これは、投資家が企業へ投資する際に「これだけのリスクを取るなら最低限この程度のリターンを得たい」と考える期待値を数値化したものといえます。
株主資本コストは、一般的にCAPM(資本資産評価モデル)を用いて計算されます。CAPMの計算式は次のとおりです。
- 【計算式】
- 株主資本コスト = リスクフリーレート + β ×(市場リスクプレミアム)
【補足】
※リスクフリーレート:安全資産(例:国債)に期待される利回り
※β(ベータ):市場全体と比べた個別企業のリスクの大きさ
※市場リスクプレミアム:市場平均の期待収益率とリスクフリーレートの差
β値は業種や企業ごとに異なり、上場企業であれば過去の株価変動から算出できます。未上場企業では、同業種の上場企業を参考に設定されるケースが一般的です。
有利子負債コスト
有利子負債コストとは、企業が借入や社債などを通じて調達した資金に対して支払う利息のことです。これは、債権者が企業にお金を貸し出す際に期待するリターンといえます。借入金利は基本的に借入契約によって定められており、企業の信用力、担保の有無、そして市場の金利動向などによって異なります。DCF法においては、借入金の平均金利を基準にして有利子負債コストを設定するのが一般的です。
税引後の有利子負債コスト = 借入金利 ×(1 − 実効税率)
4.ターミナルバリューの計算
DCF法では、予測期間終了後のキャッシュフローを評価するため、ターミナルバリュー(残存価値)を算出します。これは、企業が予測期間以降も存続し、一定の成長を続けることを前提とした、将来キャッシュフローの現在価値の総和です。
ターミナルバリューの算定方法としては、ゴードン成長モデル(永久成長モデル)が一般的です。これは、予測期間の最終年度のフリーキャッシュフロー(FCF)に永久成長率を加味し、割引率との差で除算することで求められます。
- 【計算式の一例】
- ターミナルバリュー = 最終年度FCF × (1 + 永久成長率) ÷ (割引率 − 永久成長率)
永久成長率とは、予測期間以降のフリーキャッシュフロー(FCF)が毎年どの程度の割合で成長し続けるかを示す数値です。一般的にはインフレ率や長期的なGDP成長率を基準に設定され、0%から1%程度の保守的な数値が用いられます。これは、企業の将来的な成長を慎重に見積もるための重要な指標です。
5.事業価値(EV)の算定
DCF法では、予測期間中のフリーキャッシュフロー(FCF)と、予測期間終了後の永続的な価値であるターミナルバリュー(TV)を、それぞれ割引現在価値に換算します。そして、それらの合計によって企業全体の事業価値(EV)が算出されます。
EV = 各年度のFCFの現在価値合計 + ターミナルバリューの現在価値
EVは、企業が将来にわたって創出するキャッシュフロー全体の価値を表すもので、後の株主価値の算出の基礎となります。
6.企業価値および株主価値の確定
算出したEVを用いて、実際に企業価値や株式価値を導き出します。企業価値とは、事業価値に加えて、本業以外の資産(余剰資金や遊休不動産など)も含めた、企業全体の本来的な価値を示すものです。
企業価値 = 事業価値(EV)+ 非事業資産の価値
株主価値(株式価値)は、企業価値(EV)から借入金などの有利子負債を差し引いた後に残る株主の取り分を指します。計算式としては、次のように表されます。
株式価値 = 企業価値 − 有利子負債
1株あたりの理論価格は、株主価値(株式価値)を発行済株式総数で割ることで算出できます。上場企業の場合、この理論価格と現在の市場株価を比較することで、その株式が割安か割高かを判断する目安にできます。
DCF法を用いた企業価値評価の注意点・ポイント
DCF法による企業価値評価では、将来キャッシュフロー予測の前提条件が、評価結果に大きな影響を及ぼします。そのため、前提条件の違いや赤字継続企業への適用には特に注意が必要です。
赤字企業には適していない
DCF法は、将来生み出されるキャッシュフローに基づいて企業価値を算定する手法です。基本的にはキャッシュフローが安定してプラスになる企業に適しています。継続的に赤字が続いている場合や、今後しばらくキャッシュフローが黒字に転じる見込みがない企業については、DCF法で正確な価値を求めるのは困難です。一方で、たとえ一時的に赤字であっても、今後の成長によって黒字転換が見込まれる企業であれば、DCF法による評価には十分な意義があります。
DCF法では、「将来のキャッシュフローをどのように見積もるか」が非常に重要です。そのため、事業計画の精度が低い場合や、将来の見通しが立てにくい業種では、DCF法だけでなく、他の手法も併用することが求められます。
評価結果には幅があることを理解する
DCF法による評価は、あくまで将来「こうなるはず」という前提に基づいて算出されたものです。前提条件がわずかに変わるだけでも、評価額が大きく動く場合もあります。そのため、DCF法の評価結果は確定的な数字としてとらえるのではなく、ある程度幅を持った評価と考えるのが実務的です。
また、より信頼性の高い判断を行うには、DCF法だけに依存せず、ほかの手法も組み合わせて、多面的な視点から慎重に検討することが望まれます。
まとめ
DCF法は、将来のキャッシュフローを予測し、その現在価値から企業価値や株主価値を算定する評価手法です。予測期間や割引率の設定、ターミナルバリューの算出には事業計画や業界状況の的確な見極めが求められます。前提条件次第で評価額が変動するため、他の手法と併用しつつ、多角的な視点で判断することが重要です。
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よくある質問
- DCF法とはどのような評価手法ですか?
- 将来のキャッシュフローを割引率で現在価値に換算して企業価値を算出する手法です。
- DCF法で企業価値を評価する手順は?
- 予測期間設定→FCF算出→WACC決定→ターミナルバリュー計算→EV算出→株主価値算定という流れです。
- DCF法におけるWACCとは?
- 加重平均資本コストで、株主資本コストと負債コストを加重平均した割引率です。
- ターミナルバリューはどのように計算しますか?
- 最終年度のFCFに永久成長率を加味し、割引率との差で除算して求めます。
- DCF法の注意点は何ですか?
- 前提条件により結果が大きく変動するため、他の手法と併用して評価の信頼性を高めることが重要です。
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