更新日
家族・親族に株式を譲渡する際の税金判断について
家族・親族に株式を移転する場合、相続・贈与・売買のいずれを選ぶかで、課税される税目や人、タイミングが大きく異なります。特に非上場株式では時価評価の妥当性が税務判断の中心となり、評価を誤るとみなし贈与や生前贈与加算、税務調査での否認につながるため、制度ごとの違いと典型的なリスクを整理して判断することが重要です。
家族・親族への株式移転は、経営承継や資産承継の場面で頻出します。一方で、同じ株式が移転する取引でも、相続・贈与・売買では税務上の取扱いが異なります。特に非上場株式は市場価格がないため、税務上の判断の中心は「時価評価」になりやすく、ここを曖昧にすると、税務調査の結果、みなし贈与や追徴課税につながる可能性があります。
本記事では、「親族内承継」の基本的な理解を踏まえたうえで、親族内承継において「税金判断を誤らないための判断材料」に焦点をあてて整理します。家族・親族に株式を譲渡する際の税金判断の理解を深めるのにお役立てください。
また、M&Aの基礎概要や家族への株式譲渡の方法について詳しく知りたい方は、以下の記事もご覧ください。
※なお、本記事に記載する税率・制度は現行制度および公表資料に基づきます。特に税制は改正により変動する可能性があるため、また、個別案件では前提(株価、資産内容、相続人構成、納税資金、経営権方針など)で結論が変わるため、必ず税理士等の専門家にご相談ください。
課税の種類
親族内承継の税金判断は、まずどの税目が出てくるのかを整理するところから始まります。そこで、ここでは「課税の種類」と「誰に、いつ、どの税金がかかるのか」の2つに分けて順に説明します。
相続税、贈与税、所得税(譲渡所得)
まず、親族内承継で出てくる代表的な課税の種類である相続税、贈与税、所得税(譲渡所得)についてそれぞれ簡単に説明します。
- 相続税
- 被相続人の死亡により財産を取得した人に対して課されます。株式が非上場であっても、原則として相続税評価額を基礎に申告・納税を検討します。
- 贈与税
- 生前に無償または実質無償で財産を取得した人に課されます。親族内では「名目は売買でも実質は贈与」と評価されやすいため、特に株式の時価評価が重要になります。
- 所得税(譲渡所得)
- 売買などで株式を譲渡して譲渡益が生じた場合に、主として売り手に課されます。非上場株式でも譲渡益課税の枠組みは基本的に同様で、譲渡価額と取得費等の差額がポイントです。
誰に、いつ、どの税金がかかるのか
次に誰に、いつ、どの税金がかかるのかについて整理して、説明します。
- 相続
- 死亡(相続開始)を起点として、株式を取得した相続人等に相続税が課されます。課税タイミングは相続開始に連動するため「いつ売るか」より「いつ死亡が発生したか」が重要になります。
- 贈与
- 贈与が成立し株式を取得した年分として、受贈者に贈与税が課されます。ここで重要なのは、贈与税は「現金の手渡し」に限らず、実質的に利益を移転していれば成立し得る点です。
- 売買
-
原則として売り手に譲渡所得課税が生じます。ただし、親族間で著しく低い価額で譲渡した場合などは、時価と対価との差額に担税力があるとして、相続税法7条の考え方(著しく低い価額での譲受け)により、買い手側に贈与税が課される可能性があります。財産の種類等により判定の整理をする必要があるため、評価根拠の準備が重要です。
なお、譲受人が個人ではなく法人(同族会社等)となる場合には、低額譲渡等により譲渡側で時価を基礎に譲渡があったものとして取り扱われるなど、所得税側の論点が加わるため注意が必要です。
以上の内容を表にまとめると以下のようになります。
| 手法 | 課税される税目 | 概要 |
|---|---|---|
| 相続 | 相続税 |
|
| 贈与 | 贈与税 |
|
| 売買 |
売り手:所得税 買い手:贈与税(みなし贈与となる場合) |
|
税務上の典型的なリスク
次に税務上の典型的なリスクについて説明します。親族内承継は、第三者間取引よりも「価格の客観性」、「合理性」、「証拠」が乏しくなりがちです。その結果が、みなし贈与、再課税、税務調査の論点に直結します。
ここでは、税務上の主なリスクとして「みなし贈与」、「生前贈与加算(持ち戻し・加算)」、「税務調査を受けた際に注意すべきポイント」を挙げ、順に説明していきます。
みなし贈与
みなし贈与とは、当事者の意図が「売買」であっても、税務上は実質的に利益移転があるとして「贈与があった」と評価されることをいいます。とりわけ親族間で非上場株式を低額で譲渡する場合、時価と対価との差額が「無償で与えた経済的利益」とみなされ、受け取った側に贈与税が課され得ます。親族内承継では、価格交渉のプロセス自体が簡略になりやすく、「家族だから」、「後継者だから」といった理由で価格を下げてしまうことが、みなし贈与の典型的な入口になります。
実務上の論点は、結局「その価額は時価として合理的か」に集約します。非上場株式の評価は、類似業種比準や純資産価額などの枠組みや前提の設定によって大きく変わります。それにもかかわらず、合理的な算定根拠(評価手法、前提、基礎データ、計算過程など)を示さないまま極端に低い価額を採用すると、税務上は「著しく低い価額での譲受け」に当たり得るとして差額課税を受けやすくなります。
具体例を挙げると、以下のようなケースがあります。
- 直近決算がたまたま悪い年度だけを切り取って低い評価にした
- 資産の含み益(不動産等)や収益力の回復可能性を無視して純資産価額を不自然に低く見せた
- 同業類似企業や過去の第三者取引価格との整合が取れない評価をした
これらは評価の根拠が乏しいだけでなく、「恣意的に値付けした」と見られやすい点が共通しています。
これらのリスクを下げる実務対応はシンプルで、以下のようなことが挙げられます。
- 評価は通達・実務慣行に沿う枠組みで整理する
- なぜその前提を置いたかをメモで説明可能にする
- 意思決定の記録(取締役会・株主総会等)とセットで保存する
第三者の株価算定書が常に必須とは限りませんが、少なくとも「税務調査で提示できる資料一式」を整備しておくことが、親族内売買では有効です。
生前贈与加算(持ち戻し)
贈与は「相続とは別課税」と理解されがちですが、相続等により財産を取得した人については、相続税の計算上、相続開始前の一定期間に受けた贈与が相続税の課税価格に加算(持ち戻し)されることがあります。近年の改正により、生前贈与加算の対象期間は段階的に延長され、最終的に相続開始前7年以内まで広がる設計となっています。また、相続開始前3年超7年以内の期間に受けた贈与については、一定の条件のもとで合計100万円まで相続税の課税価格への加算対象から控除できる措置があります。
ここで重要なのは、「贈与税をすでに払っているから相続税とは無関係」ではない点です。加算対象に入ると、相続税の課税価格に上乗せされるため、最終的に相続税が増える可能性があります。贈与税は調整(控除)され得るものの、制度の組み合わせや税率構造によっては「想定していたほど有利にならない」、「節税のつもりが総額で増えた」という結果になり得ます。したがって、贈与を使う場合は、単年の贈与税だけで判断せず、相続まで含めた総合試算が前提になります。
具体例としては、父が後継者である子に株式を贈与し、数年後に相続が発生したケースが挙げられます。子は贈与税申告を済ませて安心しがちですが、相続税計算で贈与分が加算され、相続税が増加することがあります。さらに非上場株式では、贈与時の評価が税務調査等で見直され、当初は「基礎控除内(例えば、年110万円)」と思っていた株式移転が、評価更正により基礎控除超過と判断されるリスクもあります。結果として、贈与税の追加負担に加えて、相続時の加算も重なると、資金計画に影響があります。
仮に贈与を選ぶなら「生前贈与加算(持ち戻し)が起こる前提」で、以下の点に留意しておくことが重要です。
- 贈与時点の株価評価の根拠を準備する
- 相続発生までの見込み期間を把握する
- 納税資金(贈与税・将来の相続税)の手当てしておく
税務調査を受けた際に注意すべきポイント
税務調査で問われるのは、主に「その価格は合理的か」、「資金と契約の実態はあるか」「説明資料は揃っているか」です。親族内承継は第三者間よりも、取引条件の客観性が弱く、証憑も簡略化されがちです。その結果、調査対応では節税スキームの巧拙よりも、「評価の筋」と「証拠の束」で勝負が決まりやすいのが実情です。
まず、価格面では、非上場株式の評価方法・前提・計算過程が整っているかが中心論点になります。通達ベースの評価と大きく乖離する場合、なぜ乖離が許容されるのか(合理的理由や特別事情)を資料で説明できないと不利になります。
また、税務調査では、都合の良い年度だけを採用していないか、資産の含み益や収益力を恣意的に除外していないか、同業比較や過去の取引実績と矛盾しないか、といった観点で整合性を見られます。
次に実態面では、売買なのに「お金が動いていない」、「資金原資が実質的に親から出ている」、「分割払いが名目だけで返済実績がない」などが重要なポイントです。親が子に資金を渡し、子がその資金で親から株を買う形は、一見すると売買ですが、贈与と売買が混ざって見えるため、みなし贈与や資金移転の実態が争点になります。さらに分割払いを採るなら、支払期日・利息の有無・担保や遅延時の扱いなど、第三者間取引としても不自然でない水準まで契約と実行を揃える必要があります。
したがって、税務調査の備えとしては、以下のような資料を事後ではなく実行時点で揃えることが重要です。
- 株価評価の一式(根拠資料・計算表・前提メモ)
- 契約書(売買・贈与の別、条件明確化)
- 支払証憑(振込記録・領収・返済履歴)
- 意思決定記録(取締役会・株主総会・株主名簿の更新)
他手法と比べた税務上の有利・不利
最後に、相続・贈与・売買を「節税になりやすいか」、「税務調査リスクが高いか」という2つ視点から整理します。ここでの注意点は、一般論としての傾向は示せても、最適解は株価水準、相続人構成、納税資金、経営権の方針、将来の売却予定等で簡単に変動することです。したがって、本章は「何を間違えると不利になるか」についての判断材料としてご覧ください。
どの手法が節税になりやすいか
相続が有利になりやすいのは、相続税の基礎控除や各種軽減の枠内で承継でき、かつ生前に無理な価格調整をしなくて済む場合です。価格操作の余地が小さいため、税務上の説明負担も相対的に抑えられます。
贈与が有利になりやすいのは、将来株価が上がる見込みが高い局面で、評価が低いタイミングに移転できる場合です。ただし、生前贈与加算(持ち戻し)が拡大している以上、「短期で相続が来る前提」では節税効果が薄れやすく、総合試算なしの贈与はリスクがあります。
売買は、節税というより税額の見える化がしやすい手法です。売り手には譲渡益課税が生じ得る一方、価格を時価に寄せれば、買い手側の贈与税(みなし贈与)リスクを下げられます。逆に、低額譲渡に比重を重くすると、節税どころか贈与税・否認リスクが大きく上がるため留意が必要です。
どの手法が税務調査を受けるリスクが高いか
一般論として、税務調査を受けるリスクが高まりやすいのは「恣意性が入りやすい取引」です。親族間の低額売買は、価格設定の自由度が高い反面、低額譲受け(みなし贈与)の直撃ゾーンに入りやすく、争点が明確になります。
贈与も、非上場株式の評価が中心論点になりやすく、根拠資料が薄いと評価否認から課税が膨らむ流れになりがちです。
相続は制度イベントとして申告が前提であるため、論点は出るものの「恣意的な価格操作」が入りにくい傾向があります。ただし、非上場株式の評価や生前贈与の加算など、見られるポイント自体は重いため、「相続なら安全」とは考えない方がよい、というのが実務的な結論といえます。
まとめ
家族・親族への株式移転は、相続・贈与・売買のいずれを選ぶかで、課税される税目(相続税、贈与税、所得税)、課税される人、課税タイミングが変わります。
税務判断で最も多い失敗例は、以下の3つです。
- 時価評価を軽く見て低額譲渡を行い、みなし贈与として否認される
- 贈与を行ったのに生前贈与加算(持ち戻し)を織り込まず、相続時に再課税されて想定が崩れる
- 契約・資金・評価などの根拠証拠が不足し、税務調査で説明できない
これらの内容を踏まえ、税金の観点から「何がどう違うのか」を把握したうえで、家族・親族への株式移転を実行に移す際には、税理士等の専門家と相談して進めることが重要です。
基本合意まで無料
事業承継・譲渡売却はお気軽にご相談ください。
よくある質問
- 家族・親族に株式を移すとき、どの税金が関係しますか?
- 相続では相続税、贈与では贈与税、売買では原則として売り手に所得税(譲渡所得)が課されます。取引内容によっては、買い手側に贈与税が課されるケースもあります。
- 相続と贈与では課税のタイミングはどう違いますか?
- 相続は被相続人の死亡を起点に相続人に相続税が課されます。一方、贈与は贈与が成立し株式を取得した年分として、受贈者に贈与税が課されます。
- 親族間の株式売買でも贈与税がかかることはありますか?
- 著しく低い価額で株式を譲渡した場合、時価との差額について買い手側に贈与税(みなし贈与)が課される可能性があります。
- 非上場株式で時価評価が重要とされる理由は何ですか?
- 市場価格がないため評価の前提や手法によって価格が大きく変わりやすく、恣意的な評価と判断されると税務調査で否認されやすいからです。
- 生前贈与加算(持ち戻し)とは何ですか?
- 相続開始前の一定期間に受けた贈与について、相続税の課税価格に加算される制度です。近年の改正により対象期間は最終的に相続開始前7年以内まで拡大されています。
- 税務調査で親族内承継はどこを見られますか?
- 株価評価の合理性、売買や贈与の実態、資金の流れ、契約書や意思決定記録など、価格と実態の整合性が中心的に確認されます。
- 相続・贈与・売買のどれが有利かはどう判断しますか?
- 株価水準、相続人構成、納税資金、経営権方針、将来の売却予定などで結論は変わるため、単一の税目だけでなく総合的な試算とリスク整理が必要です。
M&Aを流れから学ぶ
(解説記事&用語集)
M&A関連記事
M&A基礎
目的別M&A
- 事業承継とは
- 事業承継とM&Aの違い
- 事業承継M&A
- 「事業承継」と「事業継承」の違い
- 事業承継問題
- 後継者不足の実態
- 事業承継における課題
- 事業承継対策の必要性
- 事業承継を実施するタイミング
- 事業承継の流れ
- 事業承継計画
- 事業承継計画書の記載項目
- 事業承継のチェックリスト
- 事業承継における後継者選定
- 事業承継における後継者育成
- 親族内承継
- 親族外承継
- 従業員への事業承継
- 第三者承継
- 親族内承継と第三者承継の比較
- 後継者のいない会社を買う
- 事業承継の主要スキーム比較
- 持株会社を活用した事業承継
- 事業承継信託
- 事業承継ファンド
- 医療法人の事業承継
- 事業承継に向けた資金調達方法
- 事業承継補助金
- 事業承継で活用できる融資
- 事業承継における生命保険
- 事業承継税制
- 事業承継の税務対策
- 事業承継と資産移転
- 事業承継時の消費税の取扱い
- 承継時の債権・債務の取扱い
- 地位承継
- 包括承継
- 許認可の承継
- 株式相続
- 株式の贈与
- 自社株贈与
- 事業承継士
- 事業承継の専門家
- 事業承継コンサルティング
- 事業承継特別保証制度
- 事業承継に潜むリスクと対策
- 事業承継に伴う労務管理リスク
- 会社売却と事業承継の違い
M&Aスキーム
M&Aプロセス
企業価値評価
M&Aリスク
デューデリジェンス
M&Aファイナンス
M&A税務
M&A法務
用語・その他
- バスケット条項
- 当期純利益
- 資産除去債務
- XBRL
- 特別決議
- 譲渡承認取締役会
- 大量保有報告
- 適時開示
- 法務のポイント
- インサイダー取引
- チャイニーズ・ウォール
- 匿名組合
- キラー・ビー
- クラウン・ジュエル
- グリーン・メール
- ゴールデンパラシュート
- ジューイッシュ・デンティスト
- スタッガード・ボード
- スケールメリット
- ストラクチャー
- 利益相反
- 源泉徴収
- プロキシー・ファイト
- パールハーバー・ファイル
- Qレシオ
- MSCB
- IFRS
- 現物出資
- コントロールプレミアム
- ゴーイング・プライベート(Going Private)
- バックエンド・ピル
- パックマン・ディフェンス
- EV(事業価値)
- 売渡請求
- 株主価値
- レバレッジ効果
- 減損価格
- アーンアウト
- シャーク・リペラント
- スーイサイド・ピル
- ティン・パラシュート
- 低廉譲渡
- 監査法人
- 相対取引
- 範囲の経済
- アナジー効果
- 債券
- 純有利子負債(ネット デット)
- ホールディングス
- COC条項(チェンジ・オブ・コントロール条項)
- ディスクロージャー
- 会社法
- ROA(総資産利益率)
- 国際租税条約
- 役員報酬
- SWOT分析
- アンゾフの成長マトリクス
- サクセッションプラン
- ドラッグアロング
- 累進課税
- 総合課税と分離課税の違い
- キャピタルゲイン
- インカムゲイン
- 資本と負債の区分
- 益金不算入
- タックスシールド
- 繰越欠損金
- スタンドアローン・イシュー
- ロックド・ボックス方式
- 特定承継
- プットオプション
- 埋没費用(サンクコスト)
M&Aキャピタルパートナーズが
選ばれる理由
創業以来、売り手・買い手双方のお客様から頂戴する手数料は同一で、
実際の株式の取引額をそのまま報酬基準とする「株価レーマン方式」を採用しております。
弊社の頂戴する成功報酬の報酬率(手数料率)は、
M&A仲介業界の中でも「支払手数料率の低さNo.1」を誇っております。
-
明瞭かつ納得の手数料体系
創業以来変わらない着手金無料などの報酬体系で、お相手企業と基本合意に至るまで無料で支援致します。
- 関連ページ -
-
豊富なM&A成約実績
創業以来、国内No.1の調剤薬局業界のM&A成約実績の他、多種多様な業界・業種において多くの実績がございます。
- 関連ページ -
基本合意まで無料
事業承継・譲渡売却はお気軽にご相談ください。
