包括利益とは? 定義や他の財務諸表との関係、M&Aにおける重要性などをわかりやすく解説

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包括利益について

包括利益とは、特定期間に認識された純資産の変動のうち、持分所有者との直接的な資本取引を除いた部分を示す指標です。純利益に「その他の包括利益」を加えることで、未実現の評価差額や為替換算差額などを含めた広い業績像を提供し、P/LとB/Sを結び付けて企業全体の活動を把握しやすくします。表示は1計算書方式と2計算書方式が認められており、IFRSや日本の基準整備の流れの中で比較可能性と理解可能性の向上に資します。

純利益だけで企業の実力を測り切れるのか、という疑問に応える概念が「包括利益」です。未実現の評価差額や為替換算差額などを含め、期間中の純資産の変動を広く示すことで、財務情報の理解可能性と比較可能性が高まります。IFRSの普及と日本基準の整備により、表示は1計算書方式と2計算書方式のいずれも認められ、P/LとB/Sのつながりが明確になります。さらにM&Aの現場では、対象企業の真の価値を見極めるために、純利益にとどまらず包括利益を踏まえた評価が求められます

本記事では、「M&Aとは?」の基本的な理解を踏まえたうえで、包括利益に注目して、包括利益の定義、包括利益と損益計算書(P/L)や貸借対照表(B/S)との関係、包括利益の導入背景と国際財務報告基準(IFRS)との関係、M&A(Mergers and Acquisitions、合併・買収)における包括利益の重要性などについて分かりやすく解説します。
本記事で包括利益に関する理解を深めるのにお役立てください。


包括利益の概要

まずは包括利益から詳しく説明していきます。包括利益は、財務諸表に含まれる包括利益計算書で表示されるもので、企業の利益に関する情報をより広範囲に捉えるための会計指標です。

包括利益とは

包括利益とは、簡単にいうと貸借対照表の純資産の期首と期末の増減のうち、資本取引による増減を除いたものをいいます。なお、資本取引とは、株主との取引による取引のことで、例えば、株主による出資や配当金の支払いのことをいいます。
日本の会計基準を制定や改定をする機関である企業会計基準委員会(以下、「ASBJ」)が公表する企業会計基準第25号の「包括利益の表示に関する会計基準」では、包括利益のことを、以下のように定義しています。
“「包括利益」とは、ある企業の特定期間の財務諸表において認識された純資産の変動額のうち、当該企業の純資産に対する持分所有者との直接的な取引によらない部分をいう。当該企業の純資産に対する持分所有者には、当該企業の株主のほか当該企業の発行する新株予約権の所有者が含まれ、連結財務諸表においては、当該企業の子会社の少数株主も含まれる。”
包括利益は、企業の利益に関する情報をより広範囲に捉えるための会計指標です。従来の純利益は、主に通常業務から生じる収益や費用を反映していました。しかし、包括利益はこれに加え、その他の包括利益といわれる、投資有価証券の含み損益、土地の含み損益、繰延ヘッジ損益、為替換算調整勘定など、まだ実現していない損益であるその他包括損益を合計したものとなります。これにより、企業の真の業績や財務状態をより総合的に把握することが可能となります。
また、その他の包括利益は同じ会計基準で以下のように定義しています。
“「その他の包括利益」とは、包括利益のうち当期純利益及び少数株主損益に含まれない部分をいう。その他の包括利益は、個別財務諸表においては包括利益と当期純利益との間の差額であり、連結財務諸表においては包括利益と少数株主損益調整前当期純利益との間の差額である。連結財務諸表におけるその他の包括利益には、親会社株主に係る部分と少数株主に係る部分が含まれる。”

包括利益の計算式

包括利益の計算は、以下の計算式となります。

「包括利益=当期純利益 + その他の包括利益」

当期純利益は、損益計算書(P/L)上であらわされる利益のことですが、その他の包括利益には、以下のような項目は含まれています。

株式の含み損益
株式の取得時と時価との差額
土地の含み損益
保有している土地を時価換算したら損益が出る場合に計上
繰延ヘッジ損益
デリバティブの期末時点の評価額を時期に繰り延べる場合に計上
為替換算調整勘定
海外子会社の保有する資産を円換算した際に生まれる差損益
退職給付に係わる調整額
将来退職金として支給されるときに負債として生じるもの

上記の内容を見ると、その他の包括利益に含まれるものは、まだ実現していない損益といえます。

包括利益を財務諸表に表示する方法

包括利益を財務諸表に表示する方法は、1計算書方式と2計算書方式の2種類あります。それぞれについて、説明します。

1計算書方式とは

包括利益を財務諸表に表示する方法の1つ目である1計算書方式とは、当期純利益と包括利益を「損益及び包括利益計算書」の一つにまとめて表記するものです。
包括利益の表示に関する会計基準では、以下のような表示例があります。

連結損益及び包括利益計算書
売上高 10,000
税金等調整前当期純利益 2,200
法人税等 900
少数株主損益調整前当期純利益 1,300
少数株主利益(控除) 300
当期純利益 1,000
少数株主利益(加算) 300
少数株主損益調整前当期純利益 1,300
その他の包括利益:
その他有価証券評価差額金 530
繰延ヘッジ損益 300
為替換算調整勘定 △180
持分法適用会社に対する持分相当額 50
その他の包括利益合計 700
包括利益 2,000
(内訳)
親会社株主に係る包括利益 1,600
少数株主に係る包括利益 400

2計算書方式とは

包括利益を財務諸表に表示する方法の2つ目である2計算書方式とは、当期純利益と包括利益を、それぞれ「損益計算書」と「包括利益計算書」の2つに分けて表記するものです。
包括利益の表示に関する会計基準では、以下のような表示例があります。

連結損益計算書
売上高 10,000
税金等調整前当期純利益 2,200
法人税等 900
少数株主損益調整前当期純利益 1,300
少数株主利益 300
当期純利益 1,000
連結包括利益計算書
少数株主損益調整前当期純利益 1,300
その他の包括利益
その他有価証券評価差額金 530
繰延ヘッジ損益 300
為替換算調整勘定 △180
持分法適用会社に対する持分相当額 50
その他の包括利益合計 700
包括利益 2,000
(内訳)
親会社株主に係る包括利益 1,600
少数株主に係る包括利益 400

2種類の表示方式がある経緯

当期純利益を重視する観点から、1計算書方式では包括利益が強調されすぎる可能性がある等の理由で、当期純利益と包括利益が明確に区分される2計算書方式を支持する意見が多いいですが、包括利益を表示する方法が2種類あるのは、主に以下のような経緯が挙げられます。

  • 現行の国際的な会計基準では両方式とも認められていること
  • 1計算書方式でも2計算書方式でも、包括利益の内訳として表示される内容は同様であるため、選択制にしても比較可能性を著しく損なうものではないと考えられること

包括利益と他の財務諸表との関係

次に包括利益と損益計算書(P/L)・貸借対照表(B/S)の関係について、説明します。

包括利益と損益計算書(P/L)・貸借対照表(B/S)の関係

損益計算書(P/L)は、一定期間内の企業の収益と費用を示し、その差分として純利益または純損失を示すものです。一方、貸借対照表(B/S)は、特定の時点での企業の資産、負債、純資産の状態を示すものです。
包括利益は、純利益にその他包括損益を加えたものとして計算されます。そして、この包括利益は、B/S上の純資産の変動を説明する要素として位置づけられます。従って、包括利益はP/LとB/Sをつなぐ架け橋とも言える概念となっています。

包括利益と損益計算書(P/L)・貸借対照表(B/S)の関係図

包括利益と損益計算書(P/L)・貸借対照表(B/S)の関係を図表にまとめると以下のようになります。

包括利益を軸にした包括利益計算書と損益計算書(P/L)・貸借対照表(B/S)の関係図

包括利益はなぜ導入されたのか

包括利益は2011年以降、連結財務諸表に記載することが 企業会計基準第25号の「包括利益の表示に関する会計基準」で定められています。ここでは、包括利益という概念が日本の会計基準に取り入れられるようになった経緯や国際財務報告基準(IFRS)との関係について解説します。

包括利益の導入経緯

包括利益の導入の背景には、グローバルな経済活動の中での会計基準の統一が求められていたことがあります。国際会計基準委員会(IASB)が策定する国際財務報告基準(IFRS)は、国際的な取引や投資を行う際の透明性と比較可能性を高める目的で導入されました。
「包括利益の表示に関する会計基準」の結論の背景にも以下のような記載があります。

“国際財務報告基準(IFRS)及び米国会計基準においては、包括利益の表示の定めが平成9年(1997年)に設けられており、それ以後、包括利益の表示が行われている。その後、国際会計基準審議会(IASB)で業績報告に関するプロジェクトが開始され、現在は米国財務会計基準審議会(FASB)との共同による財務諸表表示プロジェクトとして進められている。このプロジェクトにおけるIASBとFASBの予備的見解が、平成20年(2008 年)10月に、ディスカッション・ペーパー「財務諸表の表示に関する予備的見解」として公表されている。また、平成22年(2010年)5月には、IASBとFASBからそれぞれ、 公開草案「その他の包括利益の項目の表示(IAS 第 1 号の修正案)」及び公開草案 「Topic220 包括利益:包括利益計算書」が公表されている。
当委員会では、このような国際的な会計基準の動きに対応するため、平成20年4月に財務諸表表示専門委員会を設置して検討を進めてきた。平成21年7月に公表した「財務諸表の表示に関する論点の整理」(以下「論点整理」という。)の中で、財務諸表の表示に関する現行の国際的な会計基準との差異について、短期的に対応する項目と中長期的に対応する項目とに区分し、包括利益の表示については、当期純利益の表示の維持を前提とした上で、我が国においても導入を短期的に検討するという方向性を示し、各界からの意見を求めた。論点整理に対するコメントの大部分は、この方向性を支持するものであった。これを受けて、当委員会では、同専門委員会において、論点整理に対して寄せられたコメントを分析した上で検討を重ね、平成21年12月に「包括利益の表示に関する会計基準(案)」を公開草案として公表し、広く意見を求めた。その後、当該公開草案に対して寄せられた意見を参考にして審議を行い、その内容を一部修正した上で 平成22年会計基準を公表するに至ったものである。” ※出典:企業会計基準第25号「包括利益の表示に関する会計基準」

日本は、上記のような経緯からIFRSの適用を進める中で、包括利益の概念を取り入れました。IFRSにおいては、企業活動の結果としての変動を全体的に捉えるための指標として、包括利益が位置づけられています。

包括利益と国際財務報告基準(IFRS)との関係

当期純利益のみの場合、会社の営業活動による利益の増減しか把握できません。ここで、国際財務報告基準(IFRS)では貸借対照表(B/S)を重視しており、金利、為替、株価の変動による純資産の増減も重視しております。これを開示することでその企業における為替、株式の時価変動によって純資産がどのように影響しているか把握出来るようになります。このような背景から包括利益の開示が義務付けられました。

なお、「包括利益の表示に関する会計基準」の結論の背景にも以下のような記載があります。

“包括利益及びその他の包括利益の内訳を表示する目的は、期中に認識された取引及び経済的事象(資本取引を除く。)により生じた純資産の変動を報告するとともに、その他の包括利益の内訳項目をより明瞭に開示することである。包括利益の表示によって提供される情報は、投資家等の財務諸表利用者が企業全体の事業活動について検討するのに役立つことが期待されるとともに、貸借対照表との連携(純資産と包括利益とのクリーン・サープラス関係1)を明示することを通じて、財務諸表の理解可能性と比較可能性を高め、また、国際的な会計基準とのコンバージェンスにも資するものと考えられる。” ※出典:企業会計基準第25号「包括利益の表示に関する会計基準」

M&Aにおける包括利益

M&Aの実施過程においても、包括利益は重要な役割を果たします。買収対象となる企業の真の価値を評価する際、従来の純利益だけでなく、その他包括損益を含めた総合的な業績を把握することが求められるためです。
M&Aの成功は、買収対象の正確な価値評価に大きく依存しています。そのため、包括利益を正確に理解し、適切に評価することは、M&A戦略の成功を左右する重要な要素となります。

まとめ

今回は、包括利益について解説しました。
日本の包括利益の導入は、グローバルな経済活動の中での透明性と比較可能性の追求、および真の企業価値の把握という要請に応えるものです。損益計算書(P/L)と貸借対照表(B/S)の関連性を示し、企業の総合的な業績を示すこの指標は、M&Aを含めた経営戦略を進める上でも欠かせない要素となっています。
本記事を通じて、包括利益の理解が深まり、それを自社の経営やM&Aの現場で活用する一助となれば幸いです。



よくある質問

  • 包括利益とは何ですか?
  • 包括利益とは、貸借対照表の純資産の期首と期末の増減のうち、株主からの出資や配当金の支払いなど資本取引による増減を除いた部分を指します。従来の当期純利益に加え、投資有価証券や土地の含み損益、繰延ヘッジ損益、為替換算調整勘定などの「その他の包括利益」を合計したもので、企業の利益情報をより広範囲に捉えるための会計指標です。
  • その他包括利益にはどのような項目が含まれますか?
  • その他包括利益には、株式の含み損益(株式の取得時と時価との差額)、土地の含み損益(保有土地を時価換算した際の損益)、繰延ヘッジ損益(デリバティブの評価額を将来に繰り延べる場合の損益)、為替換算調整勘定(海外子会社等の資産を円換算した際の差損益)、退職給付に係わる調整額(将来支給される退職給付に関連する負債の変動)など、まだ実現していない損益が含まれます。
  • 包括利益はどのように計算しますか?
  • 包括利益は「包括利益=当期純利益+その他の包括利益」という計算式で求めます。当期純利益は損益計算書上の利益であり、これに投資有価証券評価差額金や繰延ヘッジ損益、為替換算調整勘定などのその他包括利益を加算することで、その期間に認識された純資産の変動(資本取引を除く)を金額として把握できます。
  • 包括利益は財務諸表上どのように表示されますか?
  • 包括利益の表示方法には「1計算書方式」と「2計算書方式」の2種類があります。1計算書方式では、当期純利益とその他包括利益を一つの『損益及び包括利益計算書』にまとめて表示します。2計算書方式では、『損益計算書』で当期純利益を表示し、別途『包括利益計算書』で少数株主損益調整前当期純利益からその他包括利益を加減して包括利益を示します。いずれの方式でも、親会社株主に係る包括利益と少数株主に係る包括利益の内訳を表示する点は共通です。
  • 1計算書方式と2計算書方式が併存しているのはなぜですか?
  • 包括利益の表示方法が2種類あるのは、国際的な会計基準(IFRSや米国会計基準)で両方式が認められていることに対応するためです。1計算書方式でも2計算書方式でも、包括利益とその他包括利益の内訳として表示される内容は同じであるため、どちらかを選択しても財務諸表の比較可能性を著しく損なわないと考えられています。また、当期純利益を重視する観点から、純利益と包括利益を明確に区分したいというニーズもあり、2計算書方式を支持する意見にも配慮して選択制とされています。
  • 包括利益はなぜ導入されたのですか?
  • 包括利益の導入背景には、国際的な会計基準とのコンバージェンスと、財務情報の透明性・比較可能性向上の要請があります。IFRSや米国会計基準では1990年代から包括利益の表示が求められており、日本でも国際的な動きに対応する形で、企業会計基準第25号『包括利益の表示に関する会計基準』が公表され、2011年以降連結財務諸表での表示が定められました。貸借対照表の純資産と包括利益とのクリーン・サープラス関係を明示することで、企業活動による純資産の変動をより網羅的に報告することが目的とされています。
  • 包括利益と損益計算書(P/L)・貸借対照表(B/S)の関係は何ですか?
  • 損益計算書(P/L)は一定期間の収益と費用を通じて当期純利益を示し、貸借対照表(B/S)は特定時点の資産・負債・純資産の残高を示します。包括利益は、純利益にその他包括損益を加えたものであり、期首と期末の純資産の変動(資本取引を除く)を説明する役割を持ちます。このため、包括利益はP/Lで示される収益性とB/Sで示される純資産の変化をつなぐ「架け橋」のような概念として位置付けられています。
  • M&Aにおいて包括利益はどのような点で重要ですか?
  • M&Aでは買収対象企業の真の価値を評価することが重要であり、その際には当期純利益だけでなく、投資有価証券や為替、退職給付などに起因するその他包括損益を含めた包括利益を確認する必要があります。包括利益を把握することで、通常業務の利益に加えて、時価評価や為替変動などが純資産に与えている影響を総合的に理解でき、買収価格の妥当性や将来のリスク・リターンをより適切に評価できるため、M&A戦略の成否を左右する重要な情報となります。

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