クロスボーダーM&Aとは? メリット・デメリット、手法や流れを解説

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クロスボーダーM&Aについて

クロスボーダーM&Aとは、国境を越えて行われる企業の合併や買収を指します。海外市場への参入や既存事業の拡大、人材や拠点の確保を目的に活用される一方で、言語、法律、商習慣、政治・経済情勢の違いを踏まえた情報収集やリスク管理、PMIまで含めた実行力が重要になります。

日本の国内市場は、少子高齢化による人口減少により、長期的な縮小傾向にあります。一方で海外に目を向けると、近隣諸国にはこれから成長段階を迎える市場が数多く存在し、とりわけASEAN諸国の経済成長率には目を見張るものがあります。

本記事では、「M&Aとは?」の基本的な理解を踏まえたうえで、クロスボーダーM&Aの概要や特徴、メリット・デメリット、注意点を解説します。実例も紹介しますので、ぜひ最後までご覧ください。


クロスボーダーM&Aとは

まずは、クロスボーダーM&Aの概要や成功率、年間の実施件数などについて、具体的なデータをもとに紹介します。

クロスボーダーM&A=国際間の合併や買収

クロスボーダーM&Aとは、直訳すると「国境をまたぐM&A」を意味し、具体的には国際間で行われる合併や買収などを指します
クロスボーダーM&Aは、売り手企業もしくは買い手企業のどちらかが海外企業であるケースが多く、かつては大企業同士によって行われるものが大多数を占めていました。
しかし、海外への移動手段やインターネットなどの発達により、近年は中小企業も数多くクロスボーダーM&Aに取り組んでいます。とりわけ、ASEAN諸国に多くの中小企業が進出している状況です。

クロスボーダーM&Aの成功率

みずほ銀行シンガポール支店は、ASEAN関連のデータを中心とした「Asia Gateway Review」を月に一回発行しています。Asia Gateway Reviewの2020年2月号に、デロイトトーマツが調査を実施した、クロスボーダーM&Aを行った企業へのアンケート結果が掲載されており、「クロスボーダーM&Aは成功だった」とみなすことができる企業は全体の約37%となっています。
M&Aの成功率が一般的に20~40%程度とされているなか、クロスボーダーM&Aという特殊性を考慮しても、約37%という数値は十分に健闘しているといえるでしょう。

クロスボーダーM&Aの年間件数

株式会社レコフが公表している2022年度版「クロスボーダーM&Aマーケット情報」によると、日本企業によるM&A全体の案件数4,304件のうち、クロスボーダーM&Aの案件数は959件で、全体の約22%を占めています
また、クロスボーダーM&Aの内訳を見てみると、日本企業が海外企業を買収した案件が625件であるのに対して、海外企業が日本企業を買収した案件数は334件です。
海外企業が日本企業を買収するよりも、日本企業が海外企業を買収するほうが、数として多く行われていることがわかるでしょう。

クロスボーダーM&Aのメリット

クロスボーダーM&Aは、国内企業に対するM&Aに比べて手間や時間がかかります。それでもクロスボーダーM&Aを選択する企業が多いのは、市場開拓や人材確保などの面で大きなメリットがあるためです。ここでは、クロスボーダーM&Aのメリットのうち、特に重要なものを3つ紹介します。

グローバル市場の開拓につながる

グローバル市場の開拓につながる点は、クロスボーダーM&Aの最大のメリットです。海外市場が開拓できれば、自社製品を品質の高い日本製品として海外で販売する機会が生まれます
また、自社の持つ技術やノウハウを現地企業の製造現場に活用することで、シナジー効果が生じ、新たな製品を製造できるチャンスが生まれるでしょう。
進出国の市場で新たな市場を創出できれば、大きな利益が得られる可能性があります。

海外での人材・事業所確保につながる

昨今の人手不足や人件費の高騰により、企業の人材確保は困難を極めています。こうした傾向は少子化により長期的に続くと見込まれており、現在でも企業活動に深刻な影響を与えている状況です。
クロスボーダーM&Aによって海外進出が叶えば、海外の優秀な人材を獲得する可能性が広がります。さらに、海外事業所の確保も、一から立ち上げるよりもリスクを抑えつつ、少ない労力で行うことができるでしょう。
言葉・文化・商習慣など、あらゆる環境が日本とは異なる海外でビジネスを興すことは、容易ではありません。クロスボーダーM&Aなら、リスクを抑えながらスピード感を持って事業を展開することが可能です。

生産コストや税金を削減できる

海外は人件費や税制度が日本と異なるため、給与水準や税率が日本よりも低い国へ進出できれば、同じ売上高であっても最終的に多くの利益を生み出すことが可能になります。
ASEAN諸国には、低コストで事業展開しやすく、税制面でも優遇されている国が多いことから、生産拠点を移転する企業が増えています。日本と時差が少ないのもメリットの一つです。

クロスボーダーM&Aの種類

クロスボーダーM&Aには、さまざまな種類がありますが、主要なものは次の3つです。

種類 概要

OUT-IN(アウトイン)

海外企業が買い手となり、日本企業が売り手となるクロスボーダーM&A。近年はシンガポールなどの中国系企業やファンドによって行われる件数が増えている

IN-OUT(インアウト)

日本企業が買い手となり、海外企業が売り手となるクロスボーダーM&A。かつては大企業によるIN-OUT型M&Aが主流だったが、近年は国内中小企業によるIN-OUT型のM&Aが増加傾向にある

JV(ジョイントベンチャー)

日本企業と海外企業が共同出資してジョイントベンチャーを設立し、対等の立場で協業するM&A

この他にも、海外企業同士が行うOUT-OUT型のM&Aなどがあります。

クロスボーダーM&Aの手法

クロスボーダーM&Aによって海外企業を買収する場合でも、国内企業同士によるM&Aと同様に、多くのケースでは株式譲渡による手法が用いられています。しかし、買収でなく合併などが行われる場合には、次のような手法が使用されます。

三角合併

現行の法制度では、海外企業が日本企業と直接合併することは認められていません。したがって、OUT-IN型のクロスボーダーM&Aで合併を行う場合は、海外企業がまず日本に100%子会社を設立し、その子会社との間で日本企業との合併を行います
海外企業・子会社・日本企業の三社によって行われる合併のため、三角合併と呼ばれています。
日本の子会社に海外企業の株式をあらかじめ渡しておき、合併の対価として日本企業が発行する株式と交換することで、海外企業による日本企業の買収が成立する流れです。

LBO(レバレッジド・バイアウト)

LBOのイメージ画像

LBO(レバレッジド・バイアウト)とは、M&Aにおける資金調達の手法の一つです。
買収先企業の資産や信用力を担保に金融機関から借入を行い、その資金を使ってM&Aを行います。クロスボーダーM&Aに限らず、国内企業同士のM&Aでも用いられる方法です。
M&Aを行うためには資金調達が欠かせませんが、自社単独では資金が足りない場合があります。また、自社よりも事業規模の大きい企業を買収する場合は、莫大な資金が必要となるため、M&Aの成立が難しくなるでしょう。
LBOによって金融機関から資金を調達することで、希望のM&Aを実現できる可能性が高まります。

クロスボーダーM&Aの手順

クロスボーダーM&Aの手順は、相手国やM&Aの規模によって異なりますが、概ね次の流れで実施されます。

クロスボーダーM&Aの実施検討

クロスボーダーM&Aが日本企業同士のM&Aと大きく異なる点は、対象企業が属する国が外国であることです。
言葉・商習慣・法律など、ビジネス環境が大きく異なる外国の企業に対してM&Aを検討する際は、相手国に関する情報をできる限り細かく収集し、理解を深めることが大切です。
同時に、どうなればM&Aが「成功」といえるのか定義しておきましょう。自社にとってなぜM&Aが必要なのか、海外企業の買収によって何を実現したいのかを検討段階で明確にします。

情報収集・買収先企業の選定

進出予定国に関する情報が集まったところで、買収先候補となる企業の選定に入ります。
税法や会計基準が日本とは異なる場合もあるため、書類だけで買収候補の絞り込みをすることは難しいでしょう。初期段階から現地のM&A事情に詳しい専門家と連携し、海外の法律や政治状況、市場に関する情報などを照らし合わせながら、候補企業をリストアップしていきます

本格的な買収検討

現地に出向いて候補企業とのトップ面談を行い、M&Aに向けた基本的な合意が得られた段階で、クロスボーダーM&Aの成約に向けた本格的な検討を開始します。
具体的には、相手企業に対するバリュエーション(企業価値評価算定)を実施し、適正な買収価額を把握します。同時にデューデリジェンス(買収監査)を行うことで、買収後のリスクを検出することが可能です。

契約締結・クロージング

デューデリジェンスによって検出された買収後のリスクなどを最終契約書に反映させ、相手企業との交渉によって合意が得られたら、最終契約を締結します。
クロスボーダーM&Aの契約書は英語で作成するのが一般的ですが、場合によっては現地語と両方で作成することもあります。
契約後に条件などを変更するのは非常に難しいため、できるだけ細かく条項などを作成することが重要です。M&Aの専門家と協力しながら、あらゆる可能性を考慮して進めましょう。

PMIの実行

最終契約を締結し、M&Aが無事成約したら、関係者へのディスクロージャー(情報開示)を行います。その後、ただちにPMI(Post Merger Integration:統合作業)を実行します。
国内企業同士のM&AにおいてもPMIは非常に大切ですが、言葉や法律、商習慣が異なる国の企業との統合作業では、通常のM&A以上にPMIが重要です。
PMIがうまくいかなければ統合が遅れ、シナジー効果の創出に想定以上の時間がかかってしまいます。クロージングを迎える前までに、短期間で実行できるPMIのプランを立てておくと良いでしょう。

クロスボーダーM&Aを成功させるためのポイント

ここでは、クロスボーダーM&Aを成功に導くためのポイントを3つ紹介します。

現地に関する情報収集を十分に行う

クロスボーダーM&Aを成功させるためには、現地の情報収集を徹底し、精度を高めていくことが何よりも重要です。
はじめに大まかな情報を収集し、海外展開する国や地域の候補をある程度絞ります。そのうえで、次のような細かい情報を集めます。

  • 気候や人口、言語や宗教などの基本情報
  • インフラの整備状況
  • 経済成長率
  • 海外企業に対する法律や税制
  • 土地の価格や平均賃金
  • 政治状況や治安

シナジー効果を分析する

M&Aを実施する際は、シナジー効果を迅速かつ可能な限り大きく創出することを重視しましょう。M&Aの目的を具体的にしたうえで、それを実現するためには何をすべきかをじっくりと検討します。
優秀な人材が必要であれば、技術力の高い企業を買収相手に選ぶ必要があります。また、高い生産性を求めるのであれば、しっかりとした設備が整った企業を選ばなければなりません。
このように、求める>シナジー効果によって買収対象は大きく変わります。事前の検討にできるだけ時間をかけて、自社の状況を踏まえたうえで合理的に分析しておくことが大切です。

ブレークアップフィーを確認する

M&Aを成約させるためには、時間と手間、費用がかかります。特に、買い手企業はデューデリジェンス費用を支払わなければならないため、負担が大きいです。
さらに、クロスボーダーM&Aにおいては、相手国を何度か往復する必要があります。万が一、相手側の事情によりM&Aが不成立に終わってしまうと、買い手側は大きなダメージを負うことになるので十分注意しなければなりません。
こうした事態を防ぐために設定しておくのが、ブレークアップフィー条項です。ブレークアップフィー条項とは、M&A交渉時に設定される条項で、M&Aが売り手側の事情などにより不成立に終わった場合に、売り手企業が買い手企業に対して解約金を支払うことを定めたものです。
ブレークアップフィー条項を設定しておけば、破談になったとしても、買い手側が経済的損失を被らずに済みます。

クロスボーダーM&Aの注意点やリスクとは

クロスボーダーM&Aは、国内企業同士のM&A以上に注意すべき点やリスクが多いといえます。そのなかでも特に気をつけておきたいのが、次の4点です。

カントリーリスク

クロスボーダーM&Aを行うと、相手国の政治状況や経済状況などの変化によって、企業収益が大きな影響を受ける場合があります。
例えば、クーデターによる政変や為替の大幅な下落が起これば、事業の継続が困難になったり、莫大な為替差損が生じたりする恐れがあります
こうしたカントリーリスクは、企業の努力だけではどうにもなりません。事前の調査を十分に行い、リスクをできるだけ避けることが重要です。

環境リスク

環境基準や規制は進出する国によって異なるため、ルールを十分に理解したうえで事業を行わなければなりません。
日本では問題とならない場合でも、水質汚染や土壌汚染に関する罰則が科せられたり、賠償金を請求されたりする可能性があります。そのため、買収の際、会社資産に現地不動産が含まれるなどの場合は、環境デューデリジェンスを行ったほうが良いでしょう
環境リスク以外にも、日本と異なる気象条件や自然災害によって洪水などが生じた結果、工場の操業ができなくなる場合があります。

訴訟リスク

訴訟リスクとは、異なる国や地域の法律、文化、ビジネス慣行の違いから訴訟に発展するリスクのことです。具体的には、契約違反や情報開示の不備、知的財産権の紛争などが原因で訴訟が起こることがあります
こうした訴訟が一度起きてしまうと、異なる司法体系における法的手続きの違いや意思疎通の難しさから、解決までに時間がかかってしまう場合があります。
訴訟のリスクを最小限に抑えるためには、綿密なデューデリジェンスや弁護士などの専門家によるアドバイス、現地の基準に合わせた契約条件の構築が欠かせません。適切な対策を講じれば、潜在的なトラブルに対処して、円滑なM&Aを実現することができるでしょう。

労働・雇用に関するリスク

労働・雇用リスクとは、異なる国や地域の労働文化、法律、雇用条件の違いから生じるリスクのことです。従業員の雇用条件や文化の違いが調整されずに残ってしまうと、不満や労使紛争が生じやすくなり、企業同士の統合手続きが進まない恐れがあります
異なる法律に基づく労働契約や給与体系、労働者の権利保護などを適宜調整することを心がけましょう。

クロスボーダーM&Aの事例

最後に、クロスボーダーM&Aの成功事例を2つ紹介します。

事例1:株式会社セブン&アイ・ホールディングス

セブン-イレブンやイトーヨーカ堂などを傘下に置くセブン&アイ・ホールディングスは、2018年に米国のスノコLP社から、コンビニエンスストア事業とガソリン小売事業の一部を約3,452億円で譲り受けました。
日本のコンビニ業界の市場が飽和状態に達したと判断して、M&Aに至った経緯があります。
このクロスボーダーM&Aにより、2018年2月期の決算では海外コンビニ事業の営業利益が前年比で約17%増加し、全体の営業利益を押し上げることに成功しました
今後は、国内外での事業拡大と、双方の収益向上を図っていくとのことです。

事例2:株式会社電通

広告代理店国内最大手の電通は、国内市場での伸び悩みを解決する手段として、積極的なM&A戦略に舵を切ります。
2013年に英国広告代理店のイージス社を約4,090億円で買収して以降、2017年度末までに130社を超える海外企業を買収しました。その結果、全体の売上のうち海外事業部が占める割合が6割近くとなり、国内の売上を上回る伸びを示しました
2018年以降も積極的なクロスボーダーM&A戦略を継続しており、各国の広告代理店を買収して傘下に収めています。

まとめ

クロスボーダーM&Aは、グローバル市場への進出、人材や拠点の獲得、生産コストや税負担の見直しなど、多くの可能性を持つ手法です。その一方で、相手国の政治・経済情勢、法律、環境規制、訴訟、労働慣行といった日本国内にはないリスクへの備えが欠かせません。また、案件を成立させるだけでなく、PMIを通じて統合を円滑に進め、シナジー効果を早期に実現できるかが成果を大きく左右します。現地情報の収集、適切なスキーム選定、デューデリジェンス、契約条件の精査を一体で進めることが、クロスボーダーM&Aを成功に導くうえで重要です。



よくある質問

  • クロスボーダーM&Aとは何ですか?
  • クロスボーダーM&Aとは、国境を越えて行われる企業の合併や買収のことです。売り手企業または買い手企業のいずれかが海外企業であるM&Aを指します。
  • クロスボーダーM&Aにはどのような種類がありますか?
  • 主要な種類には、日本企業が海外企業を買収するIN-OUT、海外企業が日本企業を買収するOUT-IN、日本企業と海外企業が共同出資して協業するJVがあります。
  • クロスボーダーM&Aのメリットは何ですか?
  • グローバル市場の開拓、海外での人材や事業所の確保、生産コストや税金の削減が主なメリットです。国内市場が縮小するなかで、新たな成長機会を得られる点も重要です。
  • クロスボーダーM&Aではどのような手法が使われますか?
  • 多くのケースでは株式譲渡が用いられますが、合併を伴う場合には三角合併、資金調達面ではLBO(レバレッジド・バイアウト)などの手法が使われます。
  • クロスボーダーM&Aの進め方はどうなりますか?
  • 実施検討、情報収集と買収先企業の選定、本格的な買収検討、契約締結とクロージング、PMIの実行という流れで進めます。相手国の情報収集とデューデリジェンスが特に重要です。
  • クロスボーダーM&Aで注意すべきリスクは何ですか?
  • カントリーリスク、環境リスク、訴訟リスク、労働・雇用に関するリスクに注意が必要です。日本と異なる政治、法律、商習慣、労働制度を十分に理解して対応しなければなりません。
  • クロスボーダーM&Aを成功させるポイントは何ですか?
  • 現地情報の徹底収集、シナジー効果の分析、ブレークアップフィーの確認が重要です。加えて、クロージング後を見据えたPMIの準備も成功を左右します。

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